インボイスの80%控除が70%へ|2026年10月から免税事業者との取引はどう変わる?
Day1では、2026年10月からインボイス制度の特例が一斉になくなるわけではなく、段階的に変わっていくことを確認しました。
では、実際に、
「80%が70%になると、自社にはどのくらい影響するのか?」
ここが気になるところではないでしょうか。
たとえば、
- フリーランスに仕事をお願いしている
- 一人親方や職人への外注がある
- 小規模な仕入先と継続的に取引している
- インボイス未登録の外注先が複数いる
という会社では、今回の変更が経営に関係する可能性があります。
一方で、
「控除割合が10ポイント下がるなら、インボイス未登録の取引先との取引をやめたほうがいいのでは?」
と考えるのは少し早いでしょう。
今回の変更で見るべきなのは、インボイス登録の有無だけではありません。
年間取引額、実際に増える税負担、品質、価格、納期、技術力、代替できる取引先がいるか
まで含めて考える必要があります。
Day2では、2026年10月からの「80%→70%」を、経営者の視点から具体的に整理していきます。
先に結論|80%から70%になっても、すぐ控除ゼロにはならない
2026年10月1日から、インボイス発行事業者以外の者から行った一定の課税仕入れについて、経過措置で控除できる割合が、
80%から70%
に変わります。
つまり、一般課税で仕入税額控除を計算している事業者では、同じ取引を続けた場合でも、控除できる金額が少なくなり、結果として消費税負担が増える可能性があります。
ただし、
2026年10月から仕入税額控除がゼロになるわけではありません。
現在公表されている改正後の流れは次のとおりです。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2026年9月30日まで | 80% |
| 2026年10月1日~2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日~2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日~2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以降 | 原則0% |
つまり、
80% → 70% → 50% → 30% → 原則0%
と段階的に縮小します。
そのため、経営者が今行うべきなのは、
「未登録事業者との取引をやめること」ではなく、「自社がどの程度影響を受けるのかを把握すること」
です。
そもそも仕入税額控除とは?
まず、「仕入税額控除」という言葉を簡単に整理しておきましょう。
消費税を納める事業者は原則として、
売上で受け取った消費税 - 仕入れや経費で支払った消費税
という考え方をもとに、納める消費税を計算します。
このとき、仕入れや経費などで支払った消費税を一定の条件のもとで差し引く仕組みが、
仕入税額控除
です。
インボイス制度では原則として、仕入税額控除を受けるためには、適格請求書であるインボイスなど一定の書類を保存する必要があります。
しかし、制度開始と同時に、インボイスを発行できない免税事業者などからの仕入れについて一切控除できなくすると、取引する側にも大きな影響が出ます。
そこで設けられているのが、一定割合を控除できる経過措置です。
2026年10月から80%が70%になる
2026年9月30日までは、インボイス発行事業者以外から行った一定の課税仕入れについて、仕入税額相当額の80%を控除できる経過措置があります。
2026年10月1日からは、
70%
へ変更されます。
ここで大切なのは、
「80%から70%になる」ことと、「納税額が10%増える」ことは同じではない
という点です。
変わるのは、対象となる仕入税額相当額について控除できる割合です。
実際の納税額への影響は、
- 取引金額
- 適用税率
- 課税方式
- ほかの仕入れや経費
などによって変わります。
80%から70%になると、実際にいくら変わる?
数字だけでは分かりにくいため、簡単な例で考えてみましょう。
説明を分かりやすくするため、消費税率10%の取引を単純化して考えます。
インボイス未登録の外注先に、
税込11万円
を支払ったとします。
この11万円に含まれる消費税相当額を1万円とします。
2026年9月までの80%控除の場合
1万円 × 80% = 8,000円
が経過措置による控除対象になります。
2026年10月以降の70%控除の場合
1万円 × 70% = 7,000円
です。
差額は、
1,000円
です。
1回の取引だけを見ると、
「それほど大きくない」
と感じるかもしれません。
しかし、この取引が毎月続けば、単純計算で、
1,000円 × 12回 = 12,000円
の差になります。
さらに、同じような外注先が複数あれば、その差は積み重なります。
※この例は制度の考え方を理解するために単純化したものです。実際の消費税計算は、取引内容、税率、課税方式、端数処理などによって異なります。
経営者が見るべきなのは「10ポイント下がる」ではなく年間金額
経営者として重要なのは、
「80%が70%になる」
という制度上の数字だけを覚えることではありません。
本当に確認したいのは、
「自社では年間いくら影響する可能性があるのか」
です。
たとえば、インボイス未登録先との年間取引額が11万円しかない会社と、年間1,100万円ある会社では、経営への影響は大きく違います。
そのため、
「インボイス未登録先が何社あるか」よりも、「その取引先へ年間いくら支払っているか」
を見るほうが、経営判断には役立ちます。
影響が大きくなりやすい会社とは?
今回の変更で影響を確認しておきたいのは、インボイス未登録の小規模事業者への支払いが多い会社です。
たとえば、
- フリーランスへの業務委託が多い
- 一人親方や職人への外注が多い
- 小規模事業者から材料を仕入れている
- 個人クリエイターへの発注が多い
- 小規模な専門家への外注が多い
- 複数の免税事業者と継続取引している
といった事業です。
たとえばWeb制作会社なら、
- デザイナー
- ライター
- カメラマン
- 動画制作者
などに外注しているケースがあります。
建設業なら、職人や一人親方への外注が多い会社もあるでしょう。
一方、仕入先や外注先のほとんどがインボイス発行事業者であれば、今回の「80%→70%」による直接的な影響は限定的な可能性があります。
つまり、
業種だけでは影響の大きさを判断できません。
実際の取引先と年間取引額を見る必要があります。
「未登録先が何社あるか」だけでは分からない
たとえば、次の2つの会社を考えてみましょう。
A社の場合
インボイス未登録先が20社あります。
ただし、それぞれの年間取引額は数万円程度です。
B社の場合
インボイス未登録先は1社だけです。
しかし、その1社に年間1,000万円を外注しています。
「未登録先の件数」だけを見ると、A社のほうが問題が大きそうに見えます。
しかし、実際の仕入税額控除への影響は、B社のほうが大きい可能性があります。
だからこそ、
件数ではなく、取引先ごとの年間支払額を見る
ことが重要です。
すべて確認するのが大変なら「上位5社」から始める
取引先が多い会社では、すべてを一度に確認するのは大変です。
その場合は、まず、
インボイス未登録先への年間支払額が大きい上位5社
から確認してみてください。
会計ソフトや帳簿を使って、
- 取引先名
- インボイス登録の有無
- 年間支払額
- 今後も重要な取引先か
を一覧にします。
これだけでも、
「実は影響が小さかった」
あるいは、
「特定の外注先だけ影響が大きかった」
ということが見えてきます。
数字を見ることで、必要以上に不安になることも防げます。
簡易課税の場合は考え方が違う
ここまで読んで、
「うちにも全部そのまま影響するの?」
と思った方もいるでしょう。
注意したいのが、簡易課税制度を利用している場合です。
簡易課税では、実際に仕入れや経費で支払った消費税を一件ずつ積み上げて仕入税額控除を計算するのではなく、事業区分ごとの「みなし仕入率」を使います。
そのため、
一般課税と簡易課税では、インボイス未登録先から仕入れた場合の影響の考え方が異なります。
つまり、
「未登録の外注先が多いから、必ず今回の70%への変更で税額が大きく増える」
とは限りません。
まず、現在自社が、
- 一般課税
- 簡易課税
- 2割特例
のどれを利用しているか確認してください。
2026年10月だけ見て判断してはいけない理由
今回の変更でもう一つ重要なのは、
2026年10月だけを見て終わらせないこと
です。
経過措置は、
80% → 70% → 50% → 30% → 原則0%
と段階的に縮小します。
つまり、2026年10月に70%へ変わったあとも変更は続きます。
2028年10月から
70%から50%へ。
2030年10月から
50%から30%へ。
2031年10月から
経過措置による控除は原則0%になります。
そのため、
「2026年10月にいくら増えるか」だけではなく、「数年後まで同じ取引を続けた場合どうなるか」
まで確認しておくと、長期的な経営判断がしやすくなります。
だからといって、今すぐ取引先を変える必要はない
将来的に控除割合が下がると聞くと、
「今のうちにインボイス未登録先を全部変更したほうがいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、それも一律には判断できません。
たとえば、長年お願いしている職人がいて、その人だからこそ高い品質を維持できている。
あるいは、特定分野に詳しいフリーランスに仕事をお願いしていて、その人を変更すると大きな引き継ぎコストが発生する。
そのような場合、多少の税負担だけを理由に取引先を変えると、
- 品質が落ちる
- 納期が不安定になる
- 修正作業が増える
- 顧客満足度が下がる
- 新しい取引先を探すコストがかかる
といった別の問題が生じる可能性があります。
経営者が見るべきなのは、税金だけではありません。
1取引先あたり年間1億円の上限にも注意
2026年度税制改正では、経過措置の控除割合だけでなく、適用できる課税仕入れ額の上限も見直されました。
一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、
その年または事業年度の合計額が税込1億円を超える場合、超えた部分には経過措置を適用できません。
改正前の上限は10億円でしたが、1億円へ引き下げられています。
この見直しは、2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
一般的な小規模事業者では該当しないケースも多いでしょう。
ただし、特定の未登録事業者へ大きな金額を支払っている会社は注意が必要です。
未登録事業者にインボイス登録をお願いすべき?
ここまで読むと、
「それなら、取引先にインボイス登録してもらえばいいのでは?」
と考えるかもしれません。
確かに、取引先がインボイス発行事業者になれば、仕入れる側の仕入税額控除という点では扱いが変わります。
しかし、相手側にとってインボイス登録は単純な話ではありません。
これまで免税事業者だった人が登録することで、消費税の申告や納税が必要になる場合があります。
事務負担も増える可能性があります。
そのため、
「自社にとって都合がいいから登録してほしい」
という一方的な考え方ではなく、相手の事情も踏まえて話し合うことが重要です。
「登録しないなら値下げ」は慎重に
もう一つ注意したいのが、
「インボイスに登録しないなら、その分だけ価格を下げてほしい」
という対応です。
取引条件の見直しは、税務だけではなく、取引上のルールにも関係する場合があります。
特に、取引上の立場が強い側が、一方的に不利な条件を押しつけるような対応は避ける必要があります。
インボイス未登録という一点だけで、
- 一方的な値下げ
- 一方的な取引停止
を機械的に決めるのではなく、取引条件全体を見ながら慎重に判断してください。
取引条件について法的な判断が必要な場合は、税理士だけでなく弁護士など適切な専門家へ確認することも選択肢です。
取引を続けるかどうかの判断基準
では、インボイス未登録の取引先について、どのような視点で判断すればよいのでしょうか。
少なくとも次の6つを確認すると整理しやすくなります。
1.年間取引額
自社が年間いくら支払っているか確認します。
2.実際に増える消費税負担
「未登録だから損」と決めつけず、実際の影響額を概算します。
3.商品・サービスの品質
その取引先だからこそ得られる品質や技術があるか確認します。
4.代替できる取引先がいるか
同じ品質、価格、納期で代替できる事業者がいるか考えます。
5.価格
インボイス登録の有無だけではなく、最終的な調達コストで比較します。
6.長期的な取引関係
長年の取引で蓄積された知識や信頼関係にも価値があります。
つまり、
「インボイス登録しているか」だけで取引先を評価しない
ことが重要です。
仮想ケース|優秀な外注先がインボイス未登録だったら?
説明用の例として考えてみましょう。
ある会社が、長年仕事をお願いしているフリーランスAさんに、毎年まとまった金額を支払っているとします。
Aさんはインボイス未登録です。
経営者は、
「控除割合が70%になるなら、登録済みの別の人に変えたほうがいいのでは?」
と考えました。
しかし、詳しく確認するとAさんは、
- 自社の商品をよく理解している
- 修正が少ない
- 納期を守る
- 顧客からの評価も高い
- 他の人へ変更すると引き継ぎに時間がかかる
という状況でした。
この場合、
税負担の差額だけを理由に取引先を変更することが、本当に会社にとって得なのか
を考える必要があります。
反対に、同程度の品質・価格で簡単に代替でき、税負担の差も大きい場合は、取引条件を見直す合理性もあります。
答えは一律ではありません。
だからこそ、まず数字を確認することが重要です。
今日できること
今日は、会計ソフトや帳簿を開いて、
インボイス未登録の仕入先・外注先を、年間支払額が大きい順に5社
書き出してみてください。
できれば、次の4項目で整理します。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 取引先 | 会社名・外注先名 |
| インボイス | 登録済み/未登録 |
| 年間支払額 | 年間でいくら支払っているか |
| 重要度 | 高い/普通/低い |
すべて正確に集計できなくても構いません。
まず、
「どの取引先の影響が大きそうなのか」
を見えるようにすることが目的です。
まとめ|まず「未登録先への年間支払額」を確認する
2026年10月1日から、インボイス発行事業者以外から行った一定の課税仕入れについて、経過措置による控除割合は、
80%から70%
へ変わります。
ただし、2026年10月から控除できなくなるわけではありません。
その後も、
70% → 50% → 30% → 原則0%
と段階的に縮小します。
そのため、インボイス未登録先との取引がある事業者は、
「未登録先が何社あるか」ではなく、「年間いくら支払っているか」
を確認することが重要です。
特に、
- フリーランスへの外注が多い
- 一人親方や職人との取引が多い
- 小規模な仕入先が多い
- 業務委託費が大きい
といった会社では、影響を事前に確認しておくとよいでしょう。
一方で、
インボイス未登録=取引をやめるべき
ということではありません。
税負担だけでなく、
- 品質
- 価格
- 技術
- 納期
- 代替可能性
- 長期的な関係
まで含めて考える必要があります。
経営者としてまず行うべきなのは、
インボイス未登録先への年間支払額を把握すること。
数字が分かれば、本当に対応が必要なのか、どの取引から検討すべきなのかも判断しやすくなります。
よくある質問
Q1.2026年10月から免税事業者への支払いは仕入税額控除できなくなりますか?
いいえ。
一定の要件を満たす場合、2026年10月1日から2028年9月30日までは、仕入税額相当額の70%を控除できる経過措置があります。
その後は50%、30%と段階的に縮小します。
Q2.80%から70%になると、納税額が10%増えるという意味ですか?
いいえ。
変わるのは、対象となる仕入税額相当額について経過措置で控除できる割合です。
実際の納税額への影響は、取引額、課税方式、ほかの仕入れや経費などによって異なります。
Q3.インボイス未登録先との取引はやめたほうがいいですか?
一概にはいえません。
実際に増える税負担だけでなく、価格、品質、技術、納期、代替可能性、取引関係なども含めて判断することが重要です。
Q4.簡易課税を利用していても同じ影響がありますか?
簡易課税では、実際の仕入税額ではなく、事業区分ごとのみなし仕入率を使って計算します。
そのため、一般課税とは影響の考え方が異なります。
まず自社がどの課税方式を利用しているか確認してください。
Q5.2026年10月から1社あたり年間1億円の上限があるのですか?
一のインボイス発行事業者以外の者からの対象となる課税仕入れについて、その年または事業年度で税込1億円を超える部分には、経過措置を適用できない仕組みに見直されました。
この上限見直しは、2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
次回|2割特例終了後、法人と個人事業主はどう違う?
Day2では、2026年10月から「80%控除」が「70%控除」へ変わることと、インボイス未登録事業者との取引をどう確認すればよいかを見てきました。
しかし、2026年以降のインボイス対応でもう一つ重要なのが、
「2割特例が終わったあと、どうするのか?」
です。
ここでは、法人と個人事業主で選択肢が変わります。
一定の個人事業者には「3割特例」がありますが、法人は対象ではありません。
次回のDay3では、
「2割特例終了後はどうする?法人と個人事業主で違う2027年以降のインボイス対応」
をテーマに、3割特例、簡易課税、一般課税の違いを整理していきます。
インボイス未登録先が多いからといって、すぐに取引条件を変える必要があるとは限りません。
まず、自社の課税方式と年間取引額を整理し、実際にどの程度影響する可能性があるのかを確認することが大切です。
記事・相談担当者:井浪(いなみ):Amazon/Kindle 著者ページ









