サプライチェーンのリスクは小さな会社にも関係する?SCS評価制度を前に考えたいこと
「サプライチェーンと言われても、大きな製造業の話でしょう」「うちは少人数で仕事をしているから、あまり関係がないと思う」。そう感じる経営者や個人事業主の方もいるかもしれません。
ところが、仕入れ先、外注先、取引先、配送会社、クラウドサービスなどとつながって仕事をしているなら、そのつながりを通じたリスクを考える意味があります。
サプライチェーンのリスクとは、自社だけではなく、仕事を支える相手やサービスの問題が、自社の仕事にも影響することです。反対に、自社で起きた問題が取引先へ影響する場合もあります。
この5日間では、サプライチェーンの基本から、小さな事業でもできる備え、取引先への説明、同業他社との違いの伝え方まで整理します。Day1では、まず「なぜ自社にも関係するのか」を考えましょう。
そもそも、サプライチェーンとは何でしょうか
サプライチェーンは、商品やサービスがお客様に届くまでの、調達、製造、販売、提供などのつながりを指します。
たとえば、小さな飲食店なら、食材の仕入れ先、配送会社、予約サービス、決済サービスなどが仕事を支えています。個人でWeb制作をする方なら、依頼主、外部の制作協力者、サーバー会社、データを共有するサービスなどとの関係があります。
工場や倉庫がある会社だけの話ではありません。物だけでなく、情報やサービスのつながりにも目を向けることが大切です。
「誰から受け取り、誰に渡し、何を使って提供しているか」。この問いから考えると、自社のサプライチェーンが見えやすくなります。
「うちの会社だけでやっている」場合も、つながりはある
従業員が一人でも、仕事をすべて自分で担当していても、事業を支える仕組みまで自分だけで用意しているとは限りません。
- お客様との連絡に、メールやチャットを使っている
- 資料や写真を、クラウドに保存している
- 予約や決済を、外部サービスに任せている
- 商品や材料を、他社から仕入れている
- 取引先から、顧客情報や業務資料を預かっている
このようなつながりがあれば、相手の障害で仕事が止まることも、自分のアカウントの不正利用で取引先に迷惑をかけることも考えられます。
大切なのは、会社の人数だけで判断せず、どの情報を扱い、何に頼って仕事をしているかを見ることです。
サプライチェーンから、どんなリスクが入ってくるのか
サプライチェーンに関するリスクには、仕入れや配送の停止、外注先の事業中断、利用サービスの障害など、さまざまなものがあります。今回のシリーズでは、その中でも情報セキュリティと取引継続の関係を中心に扱います。
1.相手の問題によって、自社の仕事が止まる
たとえば、業務で使っているサービスに障害が起き、予約や受注の内容を確認できなくなる場面です。自社のパソコンが正常でも、外部の仕組みが使えなければ仕事に影響します。
2.預けた情報が、外部で漏れる
外注先やサービスに預けた資料には、顧客情報や取引上の情報が含まれることがあります。その情報を誰が扱い、どの範囲で共有できるかが曖昧なままだと、問題が起きたときに状況を確認しにくくなります。
3.自社の問題が、取引先へ広がる
反対に、自社のメールや共有アカウントが不正利用され、取引先へ偽の連絡が送られることも考えられます。自社は、守られる側であると同時に、取引先の仕事を支える側でもあります。
これらは仕組みを説明するための例です。自社にとって優先すべきリスクは、扱う情報や取引の内容によって変わります。
新しい圧力とは「対策を説明してほしい」という要求
経営者にとって負担になりやすいのは、対策そのものに加え、取引先からその内容を確認されることです。
「顧客情報はどこに保存していますか」「問題が起きたら誰に連絡しますか」「外注先にはどのような管理を求めていますか」。こうした質問に答えるには、普段の仕事の進め方を整理する必要があります。
IPAは、委託元が委託先の対策状況を把握しにくいことと、委託先が複数の委託元から異なる要求を受けて負担を抱えることを、サプライチェーンのセキュリティ上の課題として示しています。
つまり、この問題は「小さな会社にもっと負担をかけるべきだ」という話だけではありません。必要な対策と、その確認方法を分かりやすくすることも課題なのです。
SCS評価制度は、何を目指しているのでしょうか
SCS評価制度の正式名称は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」です。
IPAの説明では、取引先へのサイバー攻撃などによる事業やサービスの停止、情報の漏えい・改ざん、取引先を経由した不正侵入などに備え、サプライチェーン全体の対策水準を高めることを目的としています。
取引の中で、委託元が委託先に適切な段階の対策を示し、実施状況を確認することが想定されています。
2026年10月2日時点の経済産業省の公表情報では、申請受付の開始は2026年度末頃、つまり2027年1月から3月頃が予定されています。開始日や申請手続などは、今後の公式情報を確認してください。
「制度が始まるなら、すべての小規模事業者が今すぐ同じ評価を取得しなければならない」と決めつける必要はありません。自社の取引内容と、取引先が求める対策や確認方法を把握することから始めましょう。
小さな事業が、今日からできる三つのこと
1.仕事を支える相手とサービスを書き出す
仕入れ先、外注先、メール、データ保存、予約、決済など、仕事に必要な相手とサービスをメモに並べます。最初から完全な一覧を作る必要はありません。使えなくなると困るものから書いてみてください。
2.止まると困る仕事と、預かっている情報を確認する
「受注内容が見られないと困る」「顧客への連絡ができないと困る」など、仕事への影響を考えます。あわせて、自社が取引先から預かっている情報と、その保存場所を確認しましょう。
3.取引先から届いた確認事項を整理する
既にセキュリティに関する質問や依頼が届いているなら、回答期限、対象業務、求められている対策を確認します。分からない項目は、実施済みとせず、取引先に意図や対象範囲を確かめましょう。
高額なサービスを契約する前に、この三つを整理すると、何を優先すべきか考えやすくなります。
同業他社との差は、安心して任せられる説明に表れる
価格や対応の速さに加えて、情報をどう扱い、仕事が止まったときにどう連絡するかも、取引先が確認したいことです。
たとえば、「情報管理は大丈夫です」とだけ答えるより、「保存場所と閲覧できる人を決めています」「問題が起きたときの連絡担当を決めています」と、実際の管理方法を説明するほうが判断材料になります。
対策を説明できることは、取引先の不安や確認の手間を減らす助けになります。ただし、評価制度への対応や対策の実施が、受注や契約継続を保証するわけではありません。自社が実際にできていることを、正確に伝えることが大切です。
今日の小さな実践
次の三つを、それぞれ一つずつ書いてみてください。
- 使えなくなると仕事が止まるサービス
- 自社が取引先やお客様から預かっている大切な情報
- 問題が起きたときに、最初に連絡する相手
答えが曖昧なところがあれば、そこが最初に確認する場所です。サプライチェーンのリスクを、自分の仕事に置き換える第一歩になります。
まとめ
- サプライチェーンは、商品やサービスを提供するための相手や仕組みのつながりです。
- 少人数の会社や個人事業主でも、外部サービスや取引先との関係があります。
- 相手の問題が自社に影響することと、自社の問題が相手に影響することの両方を考えます。
- SCS評価制度を前に、まず自社の取引と情報の流れを整理しましょう。
- 実際の管理方法を説明できることは、安心して任せてもらうための判断材料になります。
よくある質問
製造業ではありません。それでも関係しますか?
はい。外部サービスを使って仕事をしたり、取引先の情報を扱ったりする事業にも関係します。商品だけでなく、情報やサービスのつながりを確認してください。
一人で仕事をしているなら、対策は簡単でよいのでしょうか?
人数だけでは決められません。扱う情報、取引先との接続方法、仕事が止まったときの影響によって、必要な対策を考えます。
SCS評価制度は、もう申請受付が始まっていますか?
2026年10月2日時点で確認した経済産業省の案内では、申請受付開始は2026年度末頃、2027年1月から3月頃が予定されています。最新の日程と手続は公式サイトをご確認ください。
取引先から対策を求められたら、すぐに製品を購入するべきですか?
まず、対象となる業務と、求められている内容を確認しましょう。現在の対策で対応できる部分と、不足している部分を分けてから、必要な方法を検討します。
次回予告
Day2では、取引先・外注先・クラウドサービスとのつながりを整理し、自社にとって優先すべきリスクを見つける方法を考えます。









