ブログ2025.12.20
2026年4月から「高年齢労働者の労災防止」が努力義務に|中小企業がまず押さえるべきポイント
2026年4月から「高年齢労働者の労災防止」が努力義務に|中小企業がまず押さえるべきポイント
はじめに
2026年4月から、高年齢労働者(おおむね60歳以上)に対する労災防止対策が、法律上「事業者の努力義務」として位置づけられる予定です。
「努力義務だから、やれたらやればいい程度でしょ?」「高齢のパートさんはいるけど、うちは小さい会社だから関係ないのでは?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし実際には、この改正は中小企業・個人事業主ほど影響が大きいテーマです。高年齢の従業員が一度ケガや病気で長期離脱すると、現場の穴埋め、人材採用、損害賠償リスクなど、さまざまな問題が一気に表面化します。
さらに今後は、連続勤務規制、勤務間インターバル制度の義務化、つながらない権利の確立、ストレスチェックの全事業場義務化など、「働き方」全体を見直していく流れも進んでいます。
この初回(Day1)では、「そもそも何が変わるのか」「どこまでやれば最低限セーフなのか」という全体像に絞って、やさしく整理していきます。
目次
- 高年齢労働者の労災は、なぜ問題になっているのか
- 2026年4月の法改正のポイント
- 「努力義務」とはいえ、実務上はどこまで求められるのか
- 中小企業・個人事業主が特にチェックすべき3つの視点
- これから始まる「他の制度改正」とのつながり
- まとめ+要約
- FAQ(よくある質問)
- 無料相談のご案内
高年齢労働者の労災は、なぜ問題になっているのか
厚生労働省の統計では、休業4日以上の労災のうち、60歳以上の労働者の割合は全体の約4分の1を占めると言われています。高齢化の進展にともない、この割合は今後も増えていくことが予想されています。
典型的な労災のパターンは、次のようなものです。
- ちょっとした段差や濡れた床、コードにつまずいての転倒
- 脚立・階段・トラック荷台などからの墜落・転落
- 荷物の持ち上げや介護現場での抱え上げによる腰痛
若い頃と同じ作業をしていても、
- 視力・聴力の低下
- 反応速度の低下
- 筋力・持久力の低下
といった変化の影響で、同じ環境でも事故につながりやすく、いったんケガをすると重症化しやすいという特徴があります。
つまり、「これまでも同じようにやってきたから大丈夫」と考えていると、気づかないうちにリスクが高まっている可能性がある、ということです。
2026年4月の法改正のポイント
2026年4月に施行予定の改正労働安全衛生法では、次のような趣旨の規定が設けられる方向で進んでいます。
事業者は、高年齢労働者の労災防止のため、高年齢者の心身の特性に配慮した
- 作業環境の改善
- 作業の管理
- その他必要な措置
を講ずるように努めなければならない。
ここで押さえておきたいポイントは3つです。
ポイント1:対象は「すべての事業者」
対象となるのは、大企業だけではありません。従業員数にかかわらず、60歳以上の労働者を雇っているすべての事業者が対象です。
- 正社員
- パート・アルバイト
- 短時間勤務の従業員
これらの人たちが1人でもいれば、今回の「努力義務」を意識した安全・健康対策が必要になります。
ポイント2:2026年4月1日スタート
法律上の施行は2026年4月1日からですが、現実的には2025年度中に土台作りを進めておくことが望ましいです。
具体的には、
- 高年齢労働者がどの業務をしているかの把握
- 転倒・腰痛などのリスクが高い作業の洗い出し
- すぐに改善できる対策と、時間をかけて取り組む対策の整理
といった準備を、2025年度のうちに一通り終えておくと安心です。
ポイント3:エイジフレンドリーガイドラインがベース
高年齢労働者対策の具体的な考え方や手順は、厚生労働省が公表している
「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」
(通称:エイジフレンドリーガイドライン)に整理されています。
今回の法改正は、このガイドラインの考え方を法律に反映させ、「高年齢者の特性に配慮した安全・健康対策をしっかり進めましょう」というメッセージを明確にしたものと考えるとイメージしやすいです。
「努力義務」とはいえ、実務上はどこまで求められるのか
「努力義務」と聞くと、「必ずやらなければいけないものではない」「やっていなくても罰則はない」と受け止められがちです。
たしかに、法律上の直接の罰則が予定されているわけではありませんが、実務上は次の点に注意が必要です。
労災が発生した際、行政や裁判所は
「ガイドラインや指針をどの程度踏まえていたか」
「リスクを認識しながら、何も対策をしていなかったのではないか」
といった点を総合的に見て、安全配慮義務を果たしていたかどうかを判断します。
まったく何も対策をしていない状態だと、行政指導や是正勧告、損害賠償請求などのリスクが高まる可能性があります。
逆に言えば、
- 自社でできる範囲の対策を検討し
- 実際に行ったことを記録に残しておく
これだけでも、万が一トラブルになったときの「説明材料」として大きな意味を持ちます。
ポイントは、「完璧を目指す」のではなく、「できることから着実に」です。
中小企業・個人事業主が特にチェックすべき3つの視点
エイジフレンドリーガイドラインでは、多くの項目が示されていますが、中小企業でも取り組みやすいように整理すると、次の3つの視点が重要になります。
①職場環境(ハード面)
まずは、目に見える物理的な環境を確認します。
- 段差・階段・床の滑りやすさ
- 照明の明るさ(暗い場所・影ができやすい場所がないか)
- 荷物の重さ、持ち運び方法、保管場所
- 休憩スペースの有無、暑さ・寒さ対策
高年齢の従業員がよく通る動線を一緒に歩きながら、「ここでつまずきそう」「ここは暗くて危ない」など、現場目線でチェックしていくことが効果的です。
②働き方・シフト(ソフト面)
次に、「働かせ方」そのものを見直します。
- 長時間労働や連続勤務が続いていないか
- 夜間・早朝の勤務が、高年齢の方に偏っていないか
- 仕事内容や作業スピードが、高年齢の方にとって無理のない設計になっているか
たとえば、若い人と同じペースやシフトをそのまま当てはめるのではなく、「少し早めに休憩を入れる」「負担の大きい作業を減らす」といった工夫が重要になります。
③健康状態の把握と配慮
最後に、個々の健康状態に応じた配慮です。
- 健康診断結果や、日々の体調の変化を把握しているか
- 腰・膝・持病など、本人が気にしている点への配慮があるか
- 必要に応じて、業務内容や配置の見直しを行っているか
「どこまで聞いていいのかわからない」「プライバシーが気になる」という声もありますが、本人と対話しながら、可能な範囲で情報を共有し、無理のない働き方を一緒に考えていくことが大切です。
この3つの視点を「特定の高年齢従業員の顔を思い浮かべながら」チェックしていくと、具体的に取り組むべきポイントが自然と見えてきます。
これから始まる「他の制度改正」とのつながり
2026年前後は、高年齢労働者の労災防止対策だけでなく、次のような制度も並行して議論・改正が進む見込みです。
- 連続勤務の規制(一定日数を超える連続勤務を制限する方向)
- 勤務間インターバル制度の義務化(勤務終了から次の勤務開始まで、一定時間の休息を確保)
- 勤務時間外のメール・電話などを制限する「つながらない権利」のルールづくり
- ストレスチェック制度の全事業場への義務化(従業員50人未満の事業場へも拡大する動き)
いずれも共通しているのは、
「長時間労働や過重な働き方を減らし、心身の回復時間をしっかり確保する」
という方向性です。
高年齢労働者は、長時間労働や不規則なシフト、睡眠不足の影響を特に受けやすい世代です。メンタル面の不調も重なりやすいため、
高年齢労働者の労災防止対策と、これらの制度改正はセットで考えるのが現実的です。
その意味で、今回の高年齢労働者対策を
「単独の法改正」ではなく、「安全・健康・休息をトータルで整える第一歩」
としてとらえておくと、先々の準備がスムーズになります。
まとめ+要約
- 2026年4月から、60歳以上の高年齢労働者に対する労災防止対策が、すべての事業者の「努力義務」として位置づけられます。
- ベースとなるのは、厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」であり、職場環境・働き方・健康状態などを総合的に見直すことが求められます。
- 「努力義務だからやらなくてもよい」わけではなく、できる対策を行い、その記録を残しておくことが、将来のトラブル防止・説明責任の面で非常に重要です。
- 同じタイミングで、連続勤務規制、勤務間インターバル、つながらない権利、ストレスチェック義務化などの議論も進んでおり、働き方全体を見直す流れの中で考えることがポイントです。
次回(Day2)では、今回の内容を踏まえて、「法律・ガイドラインが実際に何を求めているのか」をもう少し詳しく、しかし専門用語をできるだけ避けながら整理していきます。
FAQ(よくある質問)
Q1. うちは従業員が10人未満の小さな会社ですが、今回の努力義務は関係ありますか?
A. はい、従業員数にかかわらず、60歳以上の労働者を雇っていれば対象です。正社員だけでなく、パート・アルバイト、短時間勤務の方も含まれます。「1人だけだから関係ない」とは言えません。
Q2. 「努力義務」をしていないと、罰則はありますか?
A. 条文上、直接の罰則が設けられているわけではありません。ただし、重大な事故が起きた場合には、安全配慮義務を果たしていたかどうかの判断材料として、「ガイドラインや指針をどの程度踏まえていたか」が見られる可能性があります。完璧にやる必要はありませんが、「自社なりにできること」を整理し、実行しておくことが大切です。
Q3. エイジフレンドリー補助金は、どんなときに使えますか?
A. 高年齢労働者の労災防止や健康保持増進のための設備導入や研修などに対して、一定の条件のもとで国から補助を受けられる制度です。たとえば、
- 転倒防止のための床材・マット・手すりの設置
- 重量物取扱いの負担を減らすための補助機器(台車・リフトなど)の導入
- 高年齢労働者向けの安全衛生教育や健康づくりの取り組み
などが対象例として挙げられています。詳しい要件や募集時期などは毎年度変わることがあるため、最新情報を確認しながら検討することをおすすめします。
無料相談のご案内
ここまでお読みいただき、「うちの場合はどう考えればいいのか」「何から手をつければいいのか分からない」と感じられた方も多いと思います。
高年齢労働者の人数や業務内容、業種、これまでの労災の状況などによって、最適な対策は大きく変わります。そうした個別事情に合わせた整理こそ、専門家をうまく使って時間と手間を節約していただきたいポイントです。
記事・相談担当者:井浪(いなみ):Amazon/Kindle 著者ページ
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