中小企業がサイバーリスクと上手につき合うための「これから1年の行動計画」
はじめに(5日間のゴールを、ここで一度「言語化」する)
ここまで4日間、ランサムウェアを中心に
中小企業のサイバーリスクについてご一緒に見てきました。
Day1では、「ランサムウェアとは何か」「なぜ中小企業こそ狙われるのか」。
Day2では、「メール」「リモート接続」「クラウド」という
代表的な入口。
Day3では、実際に被害を受けた中小企業の
モデルケース。
Day4では、「小さな会社でも無理なく続けられる
7つのステップ」を整理しました。
最終回となるDay5では、
- このシリーズ全体で押さえたポイントをもう一度整理し
- 「自社はどこまでできているか」をチェックし
- これから1年の「現実的な行動計画」に落とし込む
ところまでをゴールにします。
サイバー攻撃はなくせませんが、
「備え方」は変えることができます。
その第一歩として、
今日はぜひ
「自社なりの答え」を一緒に形にしていきましょう。
1. 5日間のふり返り:中小企業が知っておくべき3つの現実
まずは、この5日間で一貫してお伝えしてきた
「3つの現実」を整理します。
現実1:「ランサムウェアは、大企業だけの問題ではない」
被害にあっているのは、大手企業だけではありません。
中小企業も、全体の中で大きな割合を占めています。
「うちは狙われるほどの会社ではない」という考え方は、
攻撃者側から見ると
「守りが甘い会社」と同じ意味
になってしまいます。
現実2:「入口が多いほど狙われやすく、止まったときの影響は会社の規模に比例しない」
メール、リモート接続、クラウド…。
便利な仕組みが増えるほど、
「外からの入口」も増えます。
被害額そのものは大企業の方が大きいかもしれませんが、
中小企業は
「数日止まる=資金繰りや信頼への打撃が大きい」
という違いがあります。
現実3:「人のうっかり+仕組みの弱点」が重なると、一気に被害が広がる
多くの事例で、
- 人のうっかり(メールを開く/パスワードを使い回す)
- 仕組みの弱点(古いVPN/更新されていないソフト/バックアップ不十分)
が重なったときに、被害が大きくなっています。
逆に言えば、
どちらか片方でも対策できれば、被害の広がりを抑えられる
ということです。
このシリーズでは、
- 人:メール・パスワード・社内ルール・防災訓練
- 仕組み:入口の棚卸し・アップデート・バックアップ
の両面から考えてきました。
2. 自社チェックリスト10問:今どこに立っているかを見える化
ここからは、
「自社は今どこまでできているか」を
ざっくり把握するためのチェックリストです。
すべて「はい/いいえ」でOKです。
「はい」が多ければ多いほど、すでに対策が進んでいると言えます。
ランサムウェア・サイバー防災チェックリスト(10問)
- 【入口】メール・リモート接続・クラウドなどの
「入口の棚卸し」を一度でも実施したことがある。 - 【やめること】ここ半年使っていないシステムやアカウントを、
停止・解約したり、入口を閉じたことがある。 - 【メール】「初めての相手+添付ファイル」「至急メール」など
怪しいメールの特徴を、社内で共有している。 - 【パスワード】会社名や誕生日を避けるなど、
パスワードの最低ルールを決めている。 - 【アップデート】Windowsや業務ソフトなどの更新について、
誰が・いつ確認するかが決まっている。 - 【ウイルス対策】会社で使うパソコンには
全てウイルス対策ソフトを入れており、期限切れがない状態になっている。 - 【バックアップ】「何を・どこに・どの頻度で」バックアップするか、
紙やファイルに明文化されている。 - 【暫定運用】システムが止まったときの
暫定的な受付方法や連絡フローをメモレベルでも用意している。 - 【外部パートナー】IT会社やベンダーに、
「うちのランサムウェアリスクで気になるところ」を一度聞いたことがある。 - 【防災訓練】年1回程度でも、
「もしシステムが止まったら?」という想定で話し合ったことがある。
結果の見方(ざっくり版)
- 「はい」が0〜3個:
これからしっかり整えていける伸びしろが大きい状態です。
まずは「入口の棚卸し」と「バックアップ」の2つから手をつけると効果的です。 - 「はい」が4〜7個:
すでに部分的な対策が進んでいます。
ばらばらにやってきた対策を
「社内ルール」と「見える化シート」でまとめると、さらに強くなります。 - 「はい」が8〜10個:
中小企業としてはかなりしっかりした対策レベルです。
年1回の見直しと訓練を続けることで、
「続ける仕組み」にしていきましょう。
大切なのは、点数ではなく
「次に何をするかが見えたかどうか」
です。
気になった項目に〇をつけておき、
後ほど「1年の行動計画」に落としていきます。
3. 社内でどう話題にするか:経営会議・現場ミーティングの進め方
サイバーリスクは、社長だけが知っていても守りきれません。
一方で、現場任せにしても進みにくいテーマです。
そこで、
「経営側」と「現場側」の両方で話題にする場
を、意識的に作るのがおすすめです。
経営会議で話すなら(30〜60分程度)
- Day1〜Day4の要点を、社長や担当者から簡単に共有する
- チェックリスト10問を読み上げ、「今どこまでできているか」をざっくり確認
「この1年で、最低限ここだけは守りたいデータ・仕組み」を決める
- 例:顧客情報、受発注システム、会計データ など
- 外部パートナーに相談したいことを3つだけ選ぶ
- 責任者と、おおよそのスケジュール感を決める
現場ミーティングで話すなら(15〜30分程度)
- メールの事例や、Day3のケース(工場・クリニック・商社)を簡単に紹介
「もしうちで同じことが起きたら?」をみんなで考える
- どこが止まりそうか
- お客さまや取引先に、どう説明するか
- メールの「3つの約束」など、
現場でできる行動ルールを確認 - 「怪しいと思ったら無理に開かなくていい」と、
経営側からあらためて伝える
ポイントは、
「教える」ではなく「一緒に考える」スタンスです。
攻められるのはシステムですが、
守るのは「人の判断」と「日々の習慣」です。
4. 専門家や外部窓口に相談するときのポイント
ランサムウェアをはじめとしたサイバーリスクは、
自社だけで完璧に対処しようとしないことも大切です。
すでにお付き合いのある
- システム会社・ITサポート会社
- クラウドサービスのサポート窓口
- 顧問の会計事務所・コンサルタント
などがいれば、まずはそこから相談してみるのがおすすめです。
相談前に整理しておくと良いこと
- どんな業務を、どのシステムやクラウドで行っているか(ざっくりでOK)
- 「これだけは止まってほしくない」業務やデータ
- サイバー被害が出たときに、一番困りそうな相手(取引先・患者さん・顧客など)
相談するときの聞き方の例
- 「うちのような規模でランサムウェアに備えるなら、まずどこから手をつけるのが現実的ですか?」
- 「今の契約の範囲で、どこまで対応してもらえますか? 逆に、どこは自社でやる必要がありますか?」
- 「もし明日、受発注システムが止まったら、御社はどのような流れでサポートしてくれますか?」
こうした質問を通じて、
「頼れるところ」と「自社で決めるところ」
が見えやすくなります。
なお、万が一の被害や不審な事象が起きた場合は、
早めに公的な相談窓口や、専門家への相談も検討してください。
「迷ったけれど、結局何も相談しなかった」よりも、
「早めに相談して、過剰だったとしても一安心できた」
状態の方が、結果的にダメージは小さくすみます。
5. これから1年の「サイバー防災」行動計画サンプル
最後に、このシリーズでお伝えしてきた内容を
「これから1年の行動計画」として整理してみます。
あくまで一例ですが、イメージをつかむためにご覧ください。
自社の状況に合わせて、順番や内容を入れ替えていただいて構いません。
第1〜3か月:現状把握と「危ない入口」を減らす期間
- 入口の棚卸し(メール/リモート接続/クラウド/外部サービス)
- 使っていないアカウントやサービスの停止・解約
- チェックリスト10問を使って、自社の現状を把握
- 経営会議で、「この1年で最低限守りたいもの」を決める
第4〜6か月:人と仕組みの「基本セット」を整える期間
- メール対応の3つの約束を社内で共有し、紙1枚のルールにまとめる
- パスワードの最低ルールを決め、重要システムのパスワードを順次見直す
- OS・業務ソフトのアップデート方針(自動更新/月1回確認など)を決める
- ウイルス対策ソフトの導入状況と期限を確認し、抜け漏れをなくす
第7〜9か月:バックアップと暫定運用の準備期間
- 「何を・どこに・どの頻度で」バックアップするかを決める
- 実際に復元できるか、テストを1度実施してみる
- システムが止まったときの暫定運用メモを作成(取引先・患者さんへの説明文例なども用意)
- 外部パートナーと、被害発生時の対応フローについて一度話し合う
第10〜12か月:社内浸透と「サイバー防災訓練」の実施期間
- 社内ルールと見える化シートを、最新版に整理して配布
- 30分〜1時間程度の「机上訓練(もしシステムが止まったら?)」を実施
- 訓練で見つかった改善点を反映し、来年に向けた見直しポイントをメモ
- 翌年も「年1回は見直す・訓練する」というサイクルをスケジュールに登録
ここまで読むと、
「1年もかけるのか」と感じられるかもしれません。
しかし実際には、1つ1つの作業は数時間〜半日程度で終わるものがほとんどです。
大切なのは、
「大ごとにせず、小さく分けて進める」こと。
このシリーズが、そのための「地図」として少しでもお役に立てば幸いです。
7. 今日のまとめと、シリーズ全体の完結メッセージ
今日と5日間全体のポイントを3つに絞ると:
- ランサムウェアをはじめとしたサイバーリスクは、
中小企業こそ「入口」と「人」と「仕組み」のバランスで備えることが重要である。 - チェックリストや1年計画のように、
自社なりの優先順位とペースを決めることで、
無理なく現実的な対策が進められる。 - すべてを自社だけで抱え込まず、
社内での対話と、外部パートナー・専門家との協力を通して、
「続けられるサイバー防災」を育てていくことが大切である。
5日間のシリーズを通じて、
ランサムウェア対策を
- 「難しいITの話」から
- 「自社の大事なものをどう守るか」という経営と現場の話
に少しでも近づけて感じていただけていれば、とてもうれしく思います。
「これで完璧」という状態は、正直なところ存在しません。
ですが、
- 入口を減らす
- バックアップを用意する
- 人のうっかりを前提にしたルールを作る
こうした小さな積み重ねが、
会社とお客さまを守る大きな力になっていきます。
もし、
「自社の場合はどう考えたらいいか」という段階で悩まれている場合は、
この下にある無料相談のご案内も、ぜひ気軽に活用してみてください。
8. まとめ
本記事では、5日間の内容をふり返りながら、中小企業がランサムウェアを含むサイバーリスクと向き合うための「自社チェックリスト」と「これから1年の行動計画」を整理しました。入口・人・仕組みのバランスを意識し、社内の対話と外部パートナーとの協力を通じて、無理なく続けられるサイバー防災体制を作ることがポイントです。
キーポイント箇条書き
- ランサムウェアは大企業だけの問題ではなく、中小企業の業務停止や信頼低下に直結する
- チェックリスト10問で、自社の現状と優先順位を見える化できる
- 経営会議と現場ミーティングの両方で話題にし、「一緒に考える」姿勢が重要
- 専門家や外部パートナーには、「何を任せて何を自社で決めるか」を意識して相談する
- 1年単位の行動計画に落とし込み、小さなステップを積み重ねることで、無理なく対策を進められる
9. FAQ(よくある質問)
Q1. どこまでできていれば「ひとまず安心」と言えるのでしょうか?
絶対のラインはありませんが、
ひとつの目安としては、
「入口の棚卸し」「バックアップの方針」「メール・パスワードの最低ルール」の3つが
形になっていれば、
「まったく手つかず」の状態からは大きく前進していると言えます。
そのうえで、年1回の見直しや訓練を続けることで、徐々に安心感を高めていくイメージです。
Q2. すでに一度対策をしたつもりですが、それでもこのチェックリストをやる意味はありますか?
はい、あります。サイバー環境は変化が早いため、
「過去にやった対策」が今も有効かどうかを見直すことが大切です。
チェックリスト10問に改めて向き合うことで、
「前はできていたが今は形骸化している部分」や、
「逆に、思ったより進んでいた部分」が見えてきます。
Q3. ここまで読んでも具体的なイメージが湧かないのですが、どうしたらよいでしょうか?
その場合は、
「自社の業務フロー」と「守りたいデータ」を紙に書き出すところから始めてみてください。
それでも難しいと感じる場合は、
外部の専門家や公的窓口に「自社の状況メモ」を見せながら相談するのがおすすめです。
下の無料相談をご活用いただき、
「自社の場合はどう考えるか」を一緒に整理するという使い方も歓迎です。
記事・相談担当者:井浪(いなみ):
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