BCPを作って終わりにしない。会社を守るBCMという考え方
はじめに
ここまで、BCPや事業継続力強化計画、通称「ジギョケイ」のメリットを見てきました。
大地震が起きたときに、従業員の安全を守り、重要な仕事を早く立て直すためには、事前に考えておくことが大切です。
しかし、最も大切なことが残っています。
それは、計画を作ることよりも、使える状態に保つことです。
従業員は入れ替わります。
取引先や仕入先も変わります。
新しいシステムや設備を導入することもあります。
事務所や工場を移転するかもしれません。
数年前に作ったBCPをそのまま保管しているだけでは、地震が起きたときに役立たない可能性があります。
そこで理解しておきたいのが、BCMです。
BCMは、BCPを作って終わりにせず、訓練や見直しを重ねながら、会社の事業継続力を高め続ける考え方です。
目次
BCPとBCMの違い
BCPは、Business Continuity Planの略で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。
一方、BCMは、Business Continuity Managementの略で、事業継続のための管理や取り組み全体を意味します。
簡単に整理すると、次のようになります。
BCP:
災害や事故などが起きたときに、どのように事業を続け、または再開するかをまとめた計画
BCM:
BCPを作り、社内で共有し、訓練し、見直し、改善し続ける活動
BCPは「計画書」に近いものです。
BCMは、その計画書を実際に使える状態に保つための、会社全体の取り組みです。
たとえば、災害時の連絡先を一覧にしたものがBCPに書かれていたとしても、その連絡先が古くなっていれば役立ちません。
定期的に連絡先を確認し、変更があれば更新する活動がBCMです。
社長が不在の場合の代理者を決めることは、BCPの一部です。
実際に社長不在を想定した訓練を行い、代理者が判断できるかを確かめることは、BCMの取り組みです。
中小企業庁は、BCMについて、事業を継続するための手順を作るだけではなく、教育、訓練、更新、事前対策なども含めた管理の流れとして説明しています。
参考:
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_b/bcpgl_03b.html
中小企業庁「BCPの策定・運用」
内閣府の事業継続ガイドラインでも、事業継続の取り組みは、単に計画を作ることではなく、会社全体で継続的に行うものとして示されています。
参考:
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline202303.pdf
内閣府「事業継続ガイドライン」
計画書だけでは会社を守れない理由
仮に、立派なBCPを作ったとします。
災害時の対応方法や責任者、重要業務、緊急連絡先などが詳しく書かれているかもしれません。
しかし、次のような状態では、実際の災害時に使えません。
- 従業員がBCPの存在を知らない
- 計画書がどこに保管されているか分からない
- 災害対応の責任者が退職している
- 緊急連絡先が古くなっている
- バックアップの復旧方法を誰も知らない
- 指定した避難場所が変更されている
- 主要な取引先や仕入先が変わっている
- 計画を一度も試したことがない
- 社長が不在の場合の判断方法が共有されていない
- 重要業務が現在の事業内容と合っていない
書類として存在することと、会社が実際に動けることは別です。
BCMでは、「計画があるか」だけではなく、「今の会社で本当に実行できるか」を繰り返し確認します。
従業員が内容を知らなければ動けない
BCPを経営者や総務担当者だけで作り、書棚に保管していても、現場の従業員が内容を知らなければ行動できません。
大地震が起きたときに、
- どの方法で安否を連絡するのか
- 会社へ出社するのか
- 誰の指示を受けるのか
- どの仕事を優先するのか
- 取引先から連絡が来たらどう答えるのか
が分からなければ、計画書があっても混乱します。
重要な内容は、日頃から従業員へ共有しておく必要があります。
会社の状況は変わり続ける
BCPを作ったときには正しかった情報も、時間がたてば変わります。
たとえば、次のような変化があります。
- 従業員が入社または退職する
- 部署や役職が変わる
- 主要な商品やサービスが変わる
- 新しい設備やシステムを導入する
- 取引先や仕入先が変わる
- 会社の拠点が増える
- 事務所や工場を移転する
- 在宅勤務や遠隔勤務を導入する
このような変化をBCPへ反映しなければ、実際の会社と計画の内容がずれていきます。
試していない計画は弱点が分からない
計画書を読んだだけでは、本当に実行できるかどうかは分かりません。
安否確認の連絡を送ったら、登録されていない従業員がいるかもしれません。
バックアップを確認したら、古いデータしか残っていないかもしれません。
社長不在を想定したところ、代理者が必要な情報や権限を持っていないことが分かるかもしれません。
実際に試すことで、初めて計画の弱点が見えてきます。
計画どおりにいかないことを前提にする
大地震では、事前の想定とは異なる状況が起こります。
第一の連絡手段が使えない、指定した場所へ行けない、責任者と連絡が取れないということもあります。
そのため、BCMでは、一つの方法に頼らず、代わりの方法を考えます。
そして、訓練や見直しを通じて、状況に応じて判断できる力を会社全体で育てます。
BCMで続ける4つの活動
BCMを難しく考える必要はありません。
基本は、次の4つの活動を繰り返すことです。
1.確認する
まず、会社を取り巻く状況に変化がないか確認します。
確認する主な内容は、次のとおりです。
- 従業員や担当者に変更がないか
- 緊急連絡先が最新か
- 責任者や代理者が現在も同じか
- 重要な商品やサービスが変わっていないか
- 取引先や仕入先に変更がないか
- 設備やシステムが変わっていないか
- 重要なデータの保存場所が正しいか
- 避難場所や集合場所が使えるか
- 周辺地域の災害リスクに変化がないか
大がかりな調査を毎回行う必要はありません。
人事異動や設備変更など、日常の変化に合わせて確認するだけでも効果があります。
2.試す
次に、計画に書かれた内容を実際に試します。
たとえば、次のような方法があります。
- 安否確認のメッセージを送る
- 社長不在を想定して代理者が判断する
- バックアップからデータを復旧する
- 事務所が使えない場合の対応を話し合う
- 主要な取引先への連絡文を作る
- 停電時に使える設備を確認する
- 重要業務を少人数で続けられるか考える
すべてを同時に試す必要はありません。
一回の訓練で一つのテーマを確認するだけでも構いません。
3.問題を見つける
訓練や話し合いを通じて、実行しにくい部分や不足している部分を見つけます。
たとえば、次のような問題です。
- 安否確認への返信が集まらない
- 誰が判断するのか分からない
- 代理者が必要な情報を持っていない
- 計画書の手順が長くて読みにくい
- 取引先の連絡先が古い
- バックアップを復旧できない
- 在宅では利用できないシステムがある
- 代替の仕入先が決まっていない
- 重要業務を担当できる人が一人しかいない
問題が見つかることは、失敗ではありません。
本番の災害が起きる前に、弱点を知ることができたということです。
4.直す
見つかった問題を、一度にすべてではなく、一つずつ改善します。
たとえば、次のような改善があります。
- 連絡先を更新する
- 安否確認の方法を分かりやすくする
- 代理者を追加する
- 代理者に必要な権限を渡す
- 重要な手順を一枚にまとめる
- バックアップの保存先を増やす
- 複数の従業員が重要業務を担当できるようにする
- 代替の仕入先や作業場所を探す
- 取引先への連絡文を事前に用意する
そして、改善した内容を次の訓練で試します。
「確認する」「試す」「問題を見つける」「直す」という流れを繰り返すことで、BCPは会社の実情に合った内容へ変わっていきます。
中小企業が無理なく続ける方法
BCMが大切だと分かっても、毎月大がかりな会議や訓練を行うのは難しいでしょう。
中小企業や個人事業主の場合、人手や時間に余裕がないこともあります。
そこで、BCMを普段の業務に組み込みます。
毎月5分の確認
月に一度、次の内容だけを確認します。
- 入社や退職がなかったか
- 従業員の連絡先に変更がないか
- 責任者や代理者に変更がないか
- 緊急連絡用の一覧が最新か
給与計算や勤怠確認など、毎月行う業務と一緒に確認すると続けやすくなります。
3か月に一度の安否確認
3か月に一度、従業員へ安否確認のメッセージを送ります。
次の点を確認します。
- 全員へ連絡が届いたか
- 返信方法を理解しているか
- どの程度の時間で返信が集まったか
- 返信がない人への再連絡方法が決まっているか
数分で終わる訓練でも、緊急連絡網が実際に使えるか確認できます。
半年に一度の話し合い
半年に一度、30分程度の話し合いを行います。
たとえば、次のような状況を一つ選びます。
- 社長と連絡が取れない
- 事務所へ一週間入れない
- 主要な仕入先から商品が届かない
- 重要な担当者が出社できない
- 停電でシステムが使えない
その状況で、誰が判断し、何を優先し、どの方法で仕事を続けるかを話し合います。
年に一度の全体見直し
年に一度、BCP全体を見直します。
主な確認内容は、次のとおりです。
- 重要業務が現在の事業内容と合っているか
- 責任者や代理者が正しいか
- 取引先や仕入先の一覧が最新か
- 設備やシステムの変更が反映されているか
- データのバックアップが機能しているか
- 避難場所や連絡方法が現在も利用できるか
- 訓練で見つかった問題が改善されているか
決算後、年度初め、人事異動後など、会社にとって分かりやすい時期を決めると続けやすくなります。
変更があったときに、その部分だけ直す
BCMは、毎回すべての文書を作り直す活動ではありません。
次のような変更があった場合に、関係する部分だけ更新します。
- 従業員が入社または退職した
- 責任者や代理者が変わった
- 事務所を移転した
- 新しいシステムを導入した
- 主要な取引先や仕入先が変わった
- 重要な商品やサービスが変わった
- 新しい設備を導入した
変化が起きたときに少しずつ更新すれば、年に一度の見直し負担も軽くなります。
大切なのは、完璧な計画を一度作ることではありません。
小さな確認と改善を止めないことです。
BCP・ジギョケイがもたらす最終的な価値
BCPやジギョケイのメリットは、税制措置や金融支援、補助金での加点だけではありません。
認定を受けることや計画書を作ることも大切ですが、本当の価値は、その後に会社がどう変わるかにあります。
BCMとして取り組みを続けることで、会社に次のような力が生まれます。
従業員が安心して働ける
災害時の連絡方法や出社判断が明確であれば、従業員は迷いにくくなります。
「地震が起きても会社へ行かなければならないのか」
「家族の安全確認を優先してよいのか」
「誰へ連絡すればよいのか」
といった不安を減らせます。
従業員本人だけでなく、その家族にとっても、会社が安全を大切にしていることは安心材料になります。
判断が一人に集中しなくなる
中小企業では、経営者一人に判断が集中しがちです。
平常時はそれで問題がなくても、災害時に社長と連絡が取れなければ、会社全体が動けなくなる可能性があります。
責任者、代理者、判断できる範囲を事前に決めることで、経営者がすべてを抱え込む状態を減らせます。
これは災害時だけでなく、経営者の急病や長期不在への備えにもなります。
お客様や取引先との関係を守りやすくなる
災害時に事業を完全に止めないことだけが、取引先からの信頼につながるわけではありません。
事業が止まった場合でも、現在の状況や今後の見込みを誠実に伝えられることが大切です。
たとえば、復旧日が分からなくても、
- 現在確認していること
- 提供できない商品やサービス
- 代替できる方法の有無
- 次回の連絡予定
を伝えれば、取引先の不安を減らせます。
連絡がない会社よりも、状況を説明できる会社の方が、関係を維持しやすくなります。
経営上の弱点を改善できる
BCMを続けることで、災害時だけでなく、普段の経営上の弱点も見つかります。
- 特定の従業員に業務が集中している
- 仕入先が一社に偏っている
- データの保存方法が安全ではない
- 経営者しか判断できない業務が多い
- 手元資金に余裕がない
- 取引先の連絡先が整理されていない
- 設備停止時の代替方法がない
これらを一つずつ改善すれば、災害が起きていない平常時の業務も安定します。
変化に強い会社になる
BCMは、大地震だけを対象にした取り組みではありません。
次のような問題にも応用できます。
- 停電
- 通信障害
- 感染症の流行
- サイバー攻撃やシステム障害
- 設備の故障
- 仕入先や物流の停止
- 経営者や重要担当者の急病
- 火災や水害
何を優先し、誰が判断し、代替手段をどう使うかという考え方は、さまざまな問題に共通します。
事業継続は、災害対策だけではありません。
会社が予想外の変化を乗り越える力を育てる経営活動です。
まずは一枚から始める
まだBCPがない場合でも、最初から分厚い計画書を作る必要はありません。
まずは、次の内容を一枚にまとめてみましょう。
- 最優先で守るもの
- 従業員の安否確認方法
- 出社するかどうかの判断基準
- 災害対応の責任者
- 責任者と連絡が取れない場合の代理者
- 会社にとって最も重要な商品やサービス
- 優先して連絡する取引先
- 取引先へ連絡する担当者
- 重要なデータの保存場所
- 事務所が使えない場合の代替方法
- 仕入先が止まった場合の代替先
- 次回の確認日や訓練日
すべての項目をすぐに埋められなくても構いません。
答えが出ない部分こそ、会社がこれから考えるべき課題です。
すでにBCPがある場合は一つだけ試す
すでにBCPやジギョケイを作っている場合は、計画書を読み直すだけでなく、内容を一つだけ試してください。
たとえば、次のような確認です。
- 安否確認のメッセージを全員へ送る
- 社長不在時の代理者を従業員へ質問する
- バックアップからデータを一つ復旧する
- 主要取引先の連絡先が最新か確認する
- 事務所が使えない場合の働き方を話し合う
試してみると、書類を読んだだけでは分からなかった問題が見つかります。
その問題を一つ直すことで、計画は会社の力になります。
完璧よりも継続を優先する
BCPやBCMに取り組む際に、最初から完璧を目指す必要はありません。
すべての災害を想定し、すべての手順を決めようとすると、作成の負担が大きくなります。
その結果、途中で止まってしまうこともあります。
まずは、人命、安否確認、責任者、重要業務、取引先への連絡という最低限の内容から始めます。
その後、訓練や見直しを重ねながら、必要な内容を少しずつ追加します。
完璧なBCPを一度作ることより、簡単なBCPを繰り返し見直すことの方が、実際の災害には役立ちます。
まとめ+要約
BCPは、災害時の対応をまとめた事業継続計画です。
BCMは、その計画を作り、従業員へ共有し、訓練し、見直し、改善し続ける活動全体です。
会社の人員、取引先、設備、システム、事業内容は変化するため、BCPを作って保管するだけでは、次第に実情と合わなくなります。
従業員が計画を知らない、責任者が退職している、緊急連絡先が古い、バックアップを復旧できないという状態では、計画書があっても災害時に使えません。
BCMでは、会社の状況を確認し、計画を試し、問題を見つけ、改善する活動を繰り返します。
毎月の連絡先確認、定期的な安否確認、責任者不在の訓練、年に一度の全体見直しなど、小さな活動を続けることで、BCPは実際に使えるものへ育ちます。
BCPやジギョケイの本当の価値は、認定や書類そのものではありません。
従業員の安全、取引先からの信頼、経営判断、重要業務、会社の将来を守る力を、日頃から高められることです。
大地震が起きたときに、すべてを計画どおりに行うことは難しいかもしれません。
それでも、何を優先するか、誰が判断するか、次にどの方法を使うかを考えておけば、混乱の中でも会社は動き始められます。
完璧な計画を目指すのではなく、小さく作り、試し、直し続けることが、災害や予想外の変化に強い会社づくりにつながります。
FAQ
Q1.BCPとBCMは、どちらから始めればよいですか?
まずは、簡単なBCPを作るところから始めます。
人命を優先する方針、安否確認方法、責任者と代理者、重要業務、主要取引先への連絡方法など、最低限の内容を整理しましょう。
その後、従業員への共有、訓練、見直し、改善を続けることで、BCMの取り組みになります。
最初から複雑な仕組みを作る必要はありません。
Q2.BCMの担当者を専任で置く必要がありますか?
必ずしも専任の担当者を置く必要はありません。
中小企業では、経営者、総務担当者、現場責任者などが役割を分担する方法があります。
たとえば、総務担当者が連絡先を更新し、現場責任者が重要業務を確認し、経営者が全体方針を承認するという分担です。
小規模な会社では、一人が複数の役割を担当しても構いません。
大切なのは、誰が何を確認するのかを曖昧にしないことです。
Q3.何から相談すればよいか分かりません。
現在困っていることから整理すれば大丈夫です。
たとえば、次のような相談から始められます。
- どの仕事を優先業務にすればよいか分からない
- BCPはあるが、一度も訓練していない
- 社長不在時の代理者を決められていない
- 従業員の安否確認方法が決まっていない
- データのバックアップが十分か不安
- ジギョケイの申請を考えている
- 計画を作ったが、内容が現場に合っているか分からない
最初から会社全体の問題を整理する必要はありません。
今気になっている一つの問題から確認し、必要な対策を少しずつ広げていくことができます。









