BCPを決めると、会社の動きが窮屈になりませんか?
はじめに
BCPの話をすると、経営者や現場の担当者から、次のような声が出ることがあります。
「細かく決めると、かえって現場が動きにくくなるのではないか」
「災害の状況は毎回違うのだから、計画どおりにはならない」
「ルールが増えて、仕事が窮屈になるのは困る」
この心配は、もっともです。
災害時の状況を、事前にすべて予測することはできません。
だからこそ、よいBCPは行動を細かく縛るものではなく、
迷ったときに戻れる判断基準
として作ります。
目次
BCPは命令書ではない
BCPを「災害時には必ずこの手順どおりに動く規則」と考えると、確かに窮屈になります。
しかし、本来のBCPは、予想外の出来事が起きたときに判断を助けるものです。
たとえば、次のような基準を決めます。
- 人命と安全を最優先する
- 建物の安全が確認できるまで出社させない
- 社長と連絡が取れない場合は、指定した代理者が判断する
- すべての業務ではなく、最重要業務から再開する
- 復旧に時間がかかる場合は、代替手段へ切り替える
これらは、現場の選択肢を奪うものではありません。
むしろ、「何を優先すればよいか」を示すことで、現場が判断しやすくなります。
災害時には、経営者や責任者がその場にいるとは限りません。
電話やインターネットが使えず、すぐに指示を受けられない可能性もあります。
そのようなとき、何も決まっていなければ、従業員は「勝手に判断してよいのだろうか」と迷います。
判断を間違えることを恐れ、誰かの指示が来るまで動けなくなるかもしれません。
BCPに会社としての優先順位が示されていれば、従業員はその考え方を基準に行動できます。
BCPは、現場を縛るためのものではなく、現場が安心して判断するための支えです。
細かく決めすぎると動けなくなる
災害時の状況は毎回異なります。
地震の規模、発生した時間帯、従業員の居場所、建物の被害、停電の範囲、交通状況などによって、必要な対応は変わります。
そのため、すべての行動を細かく決めすぎると、実際の状況に合わなくなることがあります。
たとえば、次のように決めていたとします。
「午前9時に地震が起きたら、9時10分までに全員が会議室へ集合する」
しかし、会議室の天井が落下していたら、その場所へ集まることは危険です。
従業員の多くが通勤途中であれば、10分以内の集合はできません。
建物に入れない状況であれば、そもそも会社の中へ集まるべきではありません。
一方で、
「身の安全を確保した後、指定した方法で安否を報告する」
という決め方なら、従業員が自宅、通勤途中、外出先、会社内のどこにいても、状況に応じて対応できます。
BCPでは、時間や動作を細かく固定するよりも、目的、優先順位、判断者、連絡方法を明確にすることが大切です。
具体的な手順が必要な業務もありますが、その場合でも、手順どおりにできないときの対応を考えておく必要があります。
「手順から外れてはいけない」と考えるのではなく、「この手順は何を守るためにあるのか」を共有しておくことが重要です。
決めるべきことと、現場に任せること
柔軟に動けるBCPを作るには、事前に決めることと、災害時の現場判断に任せることを分けて考えます。
必ず守る原則
会社として、どのような状況でも大切にする考え方を決めます。
- 命を危険にさらしてまで出社しない
- 安全が確認できない建物には入らない
- 従業員とその家族の安全確保を優先する
- 無理な納期を取引先に約束しない
- 確認できていない情報を社外へ発信しない
このような原則は、従業員が迷ったときの判断基準になります。
優先する仕事
災害時には、人、設備、時間、資金などが限られます。
そのため、すべての仕事を同時に再開しようとするのではなく、優先する仕事を決めます。
- 最初に復旧させる商品やサービス
- 優先して連絡する取引先
- 最低限維持しなければならない業務
- 停止すると人命や社会に大きな影響を与える業務
- 会社の資金繰りに大きく関係する業務
優先順位が決まっていれば、現場は限られた力をどこへ使うべきか判断しやすくなります。
判断する人
災害対応の責任者だけでなく、その人と連絡が取れない場合の代理者も決めます。
- 災害対応全体の責任者
- 責任者の第一代理者
- 第一代理者も不在の場合の第二代理者
- 従業員の安否を確認する担当者
- 取引先へ連絡する担当者
- 設備やシステムを確認する担当者
名前だけでなく、どこまで判断してよいのかも共有しておくことが大切です。
たとえば、「一日の休業は総務責任者が判断できる」「一定額までの緊急購入は現場責任者が決められる」など、権限の範囲を整理します。
現場に任せること
災害時の状況によって変わる部分は、現場が判断できるようにします。
- 安全な場所までの具体的な移動方法
- その時点で利用できる連絡手段
- 代替場所での細かな作業方法
- 限られた人数での業務分担
- 利用できる設備や道具の選択
- 現場周辺の被害に応じた避難先の変更
すべてを経営者が細かく決めるのではなく、会社の原則と優先順位を守る範囲で、現場が判断してよいことを明確にします。
現場に判断を任せることは、責任を押しつけることではありません。
判断の基準と権限を事前に渡し、必要な行動を取りやすくすることです。
柔軟に使えるBCPの作り方
柔軟なBCPにするためには、「一つの正解」ではなく、複数の選択肢を準備します。
安否確認の方法を複数用意する
安否確認システムを導入していても、通信障害などで使えない可能性があります。
そのため、次のように複数の手段を用意します。
- 安否確認システム
- 社内チャット
- 電子メール
- 電話やショートメッセージ
- 災害用伝言サービス
第一の方法が使えなければ、第二、第三の方法へ切り替えます。
どの手段をどの順番で使うかを決めておけば、連絡方法をその場で一から考えずに済みます。
事務所が使えない場合を考える
建物に大きな被害がなくても、安全確認が終わるまで立ち入りできないことがあります。
その場合に備えて、次のような選択肢を考えます。
- 従業員が自宅から対応する
- 別の事業所や店舗を使う
- 貸し会議室や共同利用施設を使う
- 取引先や協力会社の場所を一時的に借りる
- 一部の業務を外部へ依頼する
会社によって実現できる方法は異なります。
重要なのは、「事務所が使えないなら何もできない」という状態を避けることです。
仕入先が止まった場合を考える
自社に被害がなくても、仕入先や運送会社が被災すれば、商品や材料が届かなくなることがあります。
次のような代替案を整理しておきます。
- 別の地域にある仕入先を探しておく
- 同じ材料を扱う会社を複数確認しておく
- 代わりに使える材料や部品を検討する
- 重要な材料について最低限の在庫を持つ
- 協力会社と相互支援について話し合う
災害が起きてから初めて代替先を探しても、同じように困っている会社が多く、すぐに契約できるとは限りません。
責任者が不在の場合を考える
「社長が判断する」とだけ決めていても、社長自身が被災して連絡できなければ、会社は動けません。
そのため、責任者の順番を決めます。
- 代表者
- 第一代理者
- 第二代理者
さらに、責任者が切り替わる条件も決めておきます。
たとえば、「発災から一定時間連絡が取れない場合は、第一代理者が判断を引き継ぐ」という考え方です。
大切なのは、「この方法以外は認めない」と決めることではありません。
第一案が使えないときに、次の案へ移れる状態を作ることです。
小さな会社に適した考え方
中小企業や個人事業では、大企業のような分厚い計画書を作る必要はありません。
重要なのは、社員が読めること、覚えられること、そして実際に使えることです。
内容が多すぎると、災害時に必要な情報をすぐに見つけられません。
作成した担当者しか理解できない計画も、実際には役立ちにくくなります。
最初は、次の内容を一枚にまとめてもよいでしょう。
- 最優先は人命と安全であること
- 安否確認の方法
- 出社するかどうかを判断する人
- 社長不在時の代理者
- 会社にとって最も重要な業務
- 優先して連絡する取引先
- 重要なデータの保存場所
- 事務所が使えない場合の代替方法
- 次回の訓練日や見直し日
一枚にまとめることで、内容を社内で共有しやすくなります。
必要に応じて、連絡先一覧、取引先一覧、設備の停止手順などを別紙として追加します。
計画のページ数や見た目の立派さではなく、災害時に役立つかどうかが重要です。
また、経営者だけで作るのではなく、現場の従業員にも意見を聞いてみましょう。
実際の作業を担当している人だからこそ分かる問題があります。
- この機械を止めるには特別な操作が必要
- このお客様には緊急時でも必ず連絡が必要
- このデータは別の端末から開けない
- この仕事は二人いないと再開できない
- この材料は別の商品では代用できない
現場の意見を取り入れることで、実際に動ける計画になります。
従業員が計画作りに関われば、「会社から押しつけられた規則」ではなく、「自分たちを守るための準備」として理解しやすくなります。
まとめ+要約
BCPは、従業員の行動を細かく縛る命令書ではありません。
予想外の状況で迷ったときに、何を優先し、誰が判断するかを示すための基準です。
細かすぎる手順は、実際の災害時に使えなくなる可能性があります。
そのため、人命優先などの原則、重要業務、判断者、連絡方法を決めたうえで、具体的な対応には一定の柔軟性を持たせます。
事前にすべての行動を決めるのではなく、会社として守る原則と、現場が判断してよい範囲を分けて整理することが大切です。
また、安否確認、事務所、仕入先、責任者などについて、一つの方法だけでなく、第一案が使えない場合の第二案、第三案を用意しておきます。
小さな会社では、分厚い計画書を作る必要はありません。
従業員が読みやすく、覚えやすく、災害時に確認しやすい内容から始めることが、動きやすいBCPにつながります。
FAQ
Q1.BCPに書いていない行動をしてはいけませんか?
そのようなものではありません。
災害時には、計画を作った時点では想定できなかったことが起こります。
人命と安全を最優先にし、会社の基本方針や重要業務の優先順位を守りながら、実際の状況に応じて判断する必要があります。
BCPは、すべての行動を指定するものではなく、判断するときの基準として使います。
Q2.どこまで細かく決めればよいですか?
少なくとも、会社としての優先順位、責任者と代理者、安否確認方法、重要業務、主要な連絡先は整理しておきましょう。
設備の停止やデータの復旧など、決まった操作が必要な業務については、具体的な手順を別紙にまとめる方法があります。
すべてを一つの計画書に入れるのではなく、基本方針と細かな作業手順を分けると、見直しやすくなります。
Q3.従業員の意見も入れた方がよいですか?
入れた方が、実際に使いやすい計画になります。
日常の業務を担当する従業員にしか分からない問題や、現実的な代替方法があるためです。
また、従業員が計画作りに参加することで、BCPの目的や内容を理解しやすくなり、災害時にも自分で考えて行動しやすくなります。









