大地震のあと、会社を守るのは「防災用品」だけではありません
はじめに
「大きな地震が起きたら、まずは従業員の安全を守る」
これは、多くの経営者が考えていることだと思います。
水や食料、ヘルメット、懐中電灯などを用意している会社もあるでしょう。
もちろん、こうした防災対策は大切です。
しかし、大きな地震のあとに経営者を待っているのは、避難だけではありません。
- 従業員と連絡が取れない
- 事務所や工場に入れない
- 電気や通信が使えない
- 仕入先から商品が届かない
- お客様に状況を説明できない
- 売上が止まっても、給与や家賃の支払いは続く
このような問題が、一度に起こる可能性があります。
そこで必要になるのが、BCPです。
BCPは何のために作るのか
BCPは「事業継続計画」と呼ばれます。
簡単にいえば、災害や事故などが起きたときに、
- 何を最優先で守るのか
- 誰が判断するのか
- どの仕事を先に再開するのか
- どのような方法で事業を続けるのか
を、あらかじめ整理しておくものです。
BCPの目的は、すべての業務を普段どおり続けることではありません。
限られた人、設備、資金、時間の中で、会社にとって特に重要な仕事を守り、できるだけ早く立て直すことです。
内閣府も、企業には重要な業務を中断させないこと、または中断しても可能な限り短い期間で再開することが求められると説明しています。
参考:
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/
内閣府「企業防災」
災害時に起こる「判断の渋滞」
大地震の直後は、正しい情報が十分に入ってくるとは限りません。
経営者自身も被災しているかもしれません。
そのような状況で、次々に判断を求められます。
- 従業員を出社させるのか
- 今日は休業するのか
- お客様には誰が連絡するのか
- 受注済みの仕事をどうするのか
- 仕入先を変更するのか
- 手元資金で何か月耐えられるのか
何も決めていなければ、すべてをその場で考えなければなりません。
その結果、判断が遅れたり、人によって指示が変わったりします。
BCPを作る第一のメリットは、災害を防ぐことではありません。
混乱の中でも、判断の出発点を持てることです。
決めておくことで得られる本当のメリット
BCPを定めることで、次のような効果が期待できます。
従業員の安全を守りやすくなる
安否確認の方法、避難場所、出社を控える条件などを決めておけば、従業員が無理に会社へ向かうことを防ぎやすくなります。
中小企業庁の地震時の対応例でも、従業員が在宅中、通勤中、外出中である場合を想定し、出社するかどうかなどを事前に決める必要性が示されています。
経営者が一人で抱え込まずに済む
責任者や代理者を決めておけば、社長と連絡が取れない場合でも初動を始められます。
重要な仕事を優先できる
災害時には、すべてを守ろうとすると、かえって何も守れなくなることがあります。
「この商品だけは供給を続ける」
「このお客様への連絡を最優先にする」
と決めておけば、限られた力を集中できます。
お客様や取引先からの信頼を守りやすい
事業が止まっても、状況説明や再開見込みの連絡ができれば、取引先の不安を減らせます。
連絡がない状態が続けば、「この会社にはもう頼めない」と判断されるかもしれません。
会社の弱点を平常時に見つけられる
BCPを考えると、
- この仕事は一人しか分からない
- データが事務所のパソコンにしかない
- 仕入先が一社だけになっている
といった弱点が見えてきます。
これは災害対策であると同時に、日常の経営改善でもあります。
小さな会社ほど事前準備が必要な理由
「BCPは大企業が作るもの」と思われることがあります。
しかし、人数の少ない会社ほど、一人が休んだ影響が大きくなります。
社長しか判断できない、担当者しか操作方法を知らない、仕入先が一社しかない。
このような状態では、一つの問題が会社全体の停止につながります。
大がかりな計画書を作る必要はありません。
まずは、会社が止まる原因を見つけ、重要な仕事を一つ選び、最低限の対応を決めることが出発点です。
今日から考えたい3つの質問
まず、次の3つを社内で話してみてください。
- 地震の翌日、絶対に確認しなければならないことは何か
- 社長と連絡が取れない場合、誰が判断するのか
- 一週間止まると、最も困る仕事は何か
すぐに答えが出ない部分こそ、今後備えるべき場所です。
まとめ+要約
BCPは、災害を完全に防ぐための計画ではありません。
大地震によって人、設備、通信、取引先などに問題が起きたとき、会社として何を優先し、誰が判断し、どのように事業を立て直すかを整理するものです。
BCPを定める主なメリットは、従業員の安全を守りやすくなること、判断の遅れを減らせること、重要な仕事を優先できること、取引先からの信頼を守りやすくなることです。
また、計画を考える過程で、属人化やデータ管理、仕入先の偏りなど、普段の経営上の弱点も見つけられます。
FAQ
Q1.防災マニュアルとBCPは同じですか?
同じではありません。防災マニュアルは、避難や安否確認など、人命と安全を守る行動が中心です。BCPは安全確保に加えて、重要な仕事をどのように続けるか、または再開するかまで考えます。
Q2.従業員が数人でも必要ですか?
必要性はあります。人数が少ない会社ほど、一人の不在が業務停止につながりやすいためです。数ページの簡単なものから始めても構いません。
Q3.地震が起きなければ無駄になりませんか?
無駄にはなりません。担当者の急病、停電、通信障害、仕入先の停止などにも応用できます。また、業務の属人化やデータ管理の問題を見つける機会にもなります。
記事・相談担当者:井浪(いなみ):Amazon/Kindle 著者ページ









