ブログ2025.12.16
法改正で何が変わる?企業とフリーランスの責任整理
法改正で何が変わる?企業とフリーランスの責任整理
はじめに
Day1では、「なぜ今フリーランスの労災リスクが問題になっているのか」を、背景や現場の実情から整理しました。
多くの中小企業やフリーランスが、「なんとなく不安はあるけれど、何から考えたらいいか分からない」という状態にいることも見えてきたと思います。
Day2となる今回は、その不安を少しでも「具体的な理解」に変えるために、
・どんな法律が変わりつつあるのか
・企業とフリーランスにどんな義務や責任が生まれるのか
・労災保険や特別加入がどのように広がっているのか
を、できるだけ専門用語を使わずに整理していきます。
法律の条文そのものを細かく解説するというよりも、「現場で何が変わるのか」「自分たちの行動はどう変えるべきか」に焦点を当てた内容です。
なお、法令は今後も変わる可能性があります。本記事は「考えるための地図」として使っていただき、
個別の判断や手続きについては、必ず最新の情報を確認したうえで、専門家(弁護士・社労士など)に相談するようにしてください。
1. 労働安全衛生法・作業環境測定法の改正ポイント
1-1. もともとは「雇われている人」を前提にした法律
労働安全衛生法は、本来「会社に雇われている労働者」の安全と健康を守るための法律です。
作業環境測定法も、職場の空気中の有害物質などを測定し、働く人を守ることを目的としています。
つまり、旧来の仕組みでは、
- 会社に雇われている人=守られる
- フリーランスや請負契約の人=制度の外側になりやすい
という構図になりがちでした。
1-2. なぜ「個人事業主」や「フリーランス」にも目が向き始めたのか
しかし現実には、工事現場・倉庫・イベント・製造の現場だけでなく、ITやクリエイティブの現場でも、
フリーランスや一人親方が社員と同じように作業していることが増えています。
事故や健康被害が起きたときに、
- 「契約は業務委託だから、うちは関係ない」
- 「雇われていないから、法律の守りの対象外」
という扱いになってしまうと、フリーランス側は非常に弱い立場に置かれます。
その状態が社会問題として認識され、フリーランスも含めて安全と健康を守ろうという方向に、法改正の議論が進んできました。
1-3. 改正の大きな方向性:守る範囲の拡大
労働安全衛生法や作業環境測定法の改正では、細かい条文は多数ありますが、
中小企業やフリーランスにとって重要なポイントを、あえてざっくりとまとめると、次のようになります。
- 「個人事業主」や「フリーランス」に対する安全衛生対策の推進
- メンタルヘルス対策や化学物質対策の強化
- 機械設備の安全対策や高齢者の労災防止の充実
特に最初の「個人事業主等への安全衛生対策」は、これまでグレーになりやすかった部分に光を当てるものです。
具体的には、次のようなイメージです。
- 危険な作業をフリーランスに委託するとき、安全上の情報提供や教育をしっかり行う
- 作業環境が明らかに危険であれば、発注者側も改善に努める
- 健康に大きな影響が出る可能性のある仕事については、配慮や管理の責任を明確にする
1-4. 「何年から施行か?」より大事なこと
法律の世界では、「いつ公布されて、いつ施行されるか」という日付も確かに重要です。
ただ、現場で働く私たちにとっては、
・自分たちの現場に、どんなリスクがあるのか
・そのリスクについて、誰がどこまで責任を持つのか
を早めに話し合い、形にしておくことの方が、ずっと大切です。
法律が完全に施行されるのを待ってから慌てて対応するのではなく、「どうせやらないといけないなら、早めに整えておく」という考え方を持つことで、
トラブルのリスクを下げやすくなります。
2. フリーランス新法で変わる「取引」と「就業環境」
2-1. 「フリーランス新法」とは?
通称「フリーランス新法」と呼ばれている法律は、正式には
「フリーランスとして業務委託を行う者と事業者との取引に関する法律」
といったかたちで整備された、新しいルールです。
この法律は、
- フリーランスと発注者の間の取引を公正にすること
- フリーランスの就業環境を整えること
を目的としています。
2-2. 中小企業が特に押さえておきたい義務
フリーランス新法が発注者側に求めていることを、なるべく分かりやすく言い換えると、次のようになります。
- 契約内容をきちんと文書(またはメールなど)で示すこと
- 一方的な報酬の減額や、支払遅延などの不公正な扱いをしないこと
- ハラスメントを含む不適切な言動が起きないように配慮すること
ここで注目したいのは、単に「お金のやり取りのルール」だけでなく、
「働く環境」や「人としての扱い方」にも踏み込んだ内容になっている点です。
たとえば、次のような行為は、今後ますます問題視されやすくなります。
- 契約書を出さず、口頭やチャットだけで仕事を依頼する
- 「修正無制限」「いつでも連絡OK」など、負担の大きい条件を当然のように押し付ける
- 立場の弱さにつけこみ、不当な値引きや支払遅延をする
- パワハラ・セクハラ的な言動をしながら、「業務委託だから労基署は関係ない」と考える
2-3. 安全衛生とのつながり
フリーランス新法は、一見すると「お金」や「契約」の話に見えますが、
実は労働安全衛生の話とも深くつながっています。
なぜなら、過重な要求やハラスメントは、メンタル不調や健康被害を引き起こしやすいからです。
例えば、次のようなケースです。
- 連日深夜までの対応を暗に求められ、心身が疲弊する
- チャットでの厳しい言葉が続き、睡眠障害やうつ状態になる
- 「契約を切るぞ」と脅され、無理なスケジュールを受けざるを得なくなる
こうした事態を防ぐためにも、「取引条件を明確にすること」「ハラスメントを許さない空気を作ること」が重要になっています。
フリーランス新法と安全衛生法改正を合わせて見ていくと、社会全体として、
「雇用しているかどうか」に関係なく、
働く人の安全と健康を守ろう
という方向に動いていることが分かります。
3. 労災保険特別加入の対象拡大
3-1. そもそも「特別加入」とは?
労災保険は基本的に、「会社に雇われている労働者」を守るための制度です。
しかし、建設業の一人親方や、タクシー・トラックの個人事業主など、
- 実質的には労働者と同じように働いている
- しかし形式上は「事業主」になっている
という人たちも多く存在します。
そこで用意されてきたのが、「特別加入」という仕組みです。
これは、一定の条件を満たしたフリーランスや個人事業主が、自ら希望して労災保険に入る仕組みだとイメージすると分かりやすいです。
3-2. 対象拡大で何が変わったのか
以前の特別加入は、
- 建設現場
- 運送業
- 林業・漁業
- 一部の特定業務
など、危険度の高い業種に限定されているイメージが強いものでした。
これに対して、2024年以降は、
- すべての業種のフリーランスを対象に含めていこう
という方向で制度が拡大されています。
これにより、
- エンジニアやデザイナー
- ライターやカメラマン
- コンサルタントや各種講師
- オンライン中心で活動するフリーランス
といった、これまで「労災とは縁が薄そう」と思われがちだった職種でも、仕事中のケガや病気について国の補償を受けられる道が開かれています。
もちろん、実際の加入には条件や手続きがあり、「どの団体を通じて加入するか」など、具体的なステップは別途確認が必要です。
ただ、「そもそも門前払いだった」という状況から、「選択肢ができた」というのは、とても大きな変化です。
3-3. 民間保険との違い
フリーランスの方の中には、
「労災保険と、民間の保険って何が違うの?」
「両方入らないといけないの?」
と感じる方もいると思います。
非常にざっくりとしたイメージですが、
- 労災保険:国の制度。仕事中や通勤中のケガ・病気について補償する公的保険。
- 民間保険:生命保険会社などが提供。働けない期間の所得補償など、設計の自由度が高い。
という違いがあります。
どちらが良い・悪いという話ではなく、
- まずは「最低限の土台」として労災をどうするか
- そのうえで「足りない部分」を民間保険でどう補うか
という順番で考えると、整理がしやすくなります。
4. 中小企業が押さえるべき最低ライン
4-1. 「業務委託だから関係ない」を手放す
ここまで見てきたように、法改正の流れは、
「雇用していないから関係ない」という発想からの卒業
を、企業側に求めています。
たとえ契約の形式上は「業務委託」であっても、
- 実際には自社の指示で動いている
- 自社の現場の一員として作業している
というのであれば、安全配慮や就業環境の整備について、発注者としての責任が問われる可能性があります。
4-2. 契約書の見直しポイント
中小企業として、まず取り組みやすいのが契約書の見直しです。
たとえば、次のような視点でチェックしてみてください。
- 安全に関する情報提供・教育について、何かしらの条文があるか
- 危険な作業や長時間労働が想定される場合、そのリスクの説明責任をどう果たすかが書かれているか
- ハラスメントや不適切な言動をしないことについて、基本的な考え方を共有できているか
- 報酬の支払サイトや変更ルールが明確に示されているか
いきなり完璧を目指す必要はありませんが、「何も書いていない状態」から脱することは、とても大きな一歩になります。
4-3. 現場運営のチェックポイント
契約書だけでなく、実際の現場運営も大切です。
次のような点を、社内で一度話し合ってみるとよいでしょう。
- フリーランスが出入りする現場に、明らかな危険箇所はないか
- 作業のルールや、安全に関する注意事項をきちんと説明しているか
- 事故やトラブルが起きたとき、誰が窓口となり、どう対応するか決まっているか
- 長時間労働や無理なスケジュールを「当たり前」としていないか
こうした点を少しずつ整えていくだけでも、フリーランスにとっての安心感は大きく変わりますし、
企業にとっても「後から責任を問われるリスク」を減らすことにつながります。
5. フリーランスが今からできる準備
5-1. 自分の仕事の「リスクマップ」を作ってみる
フリーランス側にとって、一番の出発点は、
「自分の仕事のどこに、どんなリスクがあるのか」
を、紙やメモに書き出してみることです。
たとえば、
- 移動中の事故(取材・出張・現場への移動など)
- 重い荷物の運搬や機材の設営でのケガ
- 長時間のPC作業による目や腰の不調
- 納期プレッシャーによるメンタル不調
など、思いつくものをすべて書き出してみます。
そのうえで、
- 「自分で工夫して減らせるリスク」
- 「制度や保険で備えたいリスク」
に分けていくと、少しずつ整理が進んでいきます。
5-2. 契約内容を「安全・健康」の視点で読み直す
契約書は、どうしても「報酬」や「納期」に目が行きがちですが、
ぜひ一度、「安全・健康」という観点でも読み直してみてください。
たとえば、
- 作業場所や作業時間について、無理のある条件になっていないか
- 危険な作業が含まれる場合、そのリスクについて説明を受けているか
- 明らかに健康を害する可能性のある条件があれば、交渉の余地はないか
などです。
「契約書は変えられないもの」と思っているフリーランスも多いのですが、
実際には「気になる点を質問してみる」だけでも、相手の姿勢がよく分かることがあります。
5-3. 労災保険特別加入や民間保険の情報収集
すぐに加入するかどうかは別としても、まずは、
- 自分の業務内容で、特別加入ができるのか
- どの団体を通じて加入できるのか
- 保険料の目安はいくらくらいか
といった基本的な情報に一度触れておくと、いざというときの判断がかなりラクになります。
あわせて、民間の所得補償保険や賠償責任保険なども、「どんなものがあるかだけでも知っておく」ことをおすすめします。
すべてに入る必要はありませんが、
「自分はどのリスクを、どの程度まで受け止めるのか」
を考えるきっかけになります。
6. 今日のまとめと次回予告
6-1. 今日のポイント
- 法改正は、「雇用されている人だけ」を守る仕組みから、「フリーランスを含めた働く人全体」を守る方向へ広がりつつある。
- フリーランス新法は、取引条件だけでなく、ハラスメントを含む就業環境の整備を求めている。
- 労災保険の特別加入は、すべての業種のフリーランスに開かれていく流れにあり、「守られる選択肢」が増えている。
- 中小企業は「業務委託だから関係ない」という発想を見直し、契約と現場運営の両方から安全配慮を検討する必要がある。
- フリーランスは、自分の仕事のリスクを言語化し、契約や保険の観点から「できる準備」を少しずつ始めることが大切である。
6-2. 明日のDay3では
Day3では、ここまでの話を「実際のケース」に落とし込んでいきます。
・イベント現場での転落事故
・ITフリーランスのメンタル不調
・偽装フリーランスが疑われたケース
など、よくあるパターンを題材に、
「どこで認識のズレが起きたのか」「どんな一言・一文があれば防げたのか」を一緒に見ていきます。
まとめ+要約
- 労働安全衛生法や作業環境測定法の改正は、フリーランスや個人事業主も視野に入れた「安全と健康の守り」を強化する方向で進んでいる。
- フリーランス新法により、契約内容の明示やハラスメント対策など、取引と就業環境の両面で発注者の義務が明確になりつつある。
- 労災保険の特別加入は、危険度の高い一部業種だけでなく、幅広いフリーランスが利用できる仕組みへと拡大している。
- 中小企業には、「業務委託だから労災は関係ない」という考えを改め、契約書と現場運営の両方から安全配慮の体制を整えることが求められる。
- フリーランスには、自分の仕事のリスクを洗い出し、契約の確認・労災特別加入・民間保険などの選択肢を検討することが重要である。
FAQ(よくある質問)
- Q1. 法改正はいつから本格的に影響してきますか?
A. 法律ごとに公布日・施行日が異なりますが、フリーランス新法や労災保険特別加入の拡大はすでにスタートしており、
安全衛生関連の改正も今後数年かけて段階的に進んでいきます。
ただし、「いつからか」よりも「どう変わるか」を早めに理解し、自社や自分の働き方を見直しておくことの方が重要です。
- Q2. うちの会社規模でも、こうした法律は関係ありますか?
A. はい、あります。法律上の義務や対応の重さには差がありますが、従業員数が少ない会社や個人事業主レベルの発注者も対象になります。
「うちは小さい会社だから関係ない」と考えていると、トラブルが起きたときに思わぬ責任を問われる可能性があります。
まずは契約書と現場のルールから、できる範囲で整えていくことをおすすめします。
- Q3. フリーランス側にも、何か法律上の義務はあるのでしょうか?
A. はい、あります。安全衛生関連の改正では、「自分の安全を守る努力をすること」について、フリーランス側にも一定の責任が求められています。
危険な作業をする場合の装備や、無理な働き方を避ける努力などは、本人にも求められる要素です。
一方で、すべてを自己責任と考える必要はなく、発注者と一緒に安全な働き方を作っていくという視点が大切です。
記事・相談担当者:井浪(いなみ):Amazon/Kindle 著者ページ
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