2026年法改正とカスタマーハラスメント義務化に向けた体制づくり【Day4】
はじめに
Day1~Day3では、
- ハラスメント対策全体の地図(4+カスハラ)
- どこからがハラスメントになるのかという線引き
- 中小企業で実際に起きやすい事例と、そのリスク
について整理してきました。
多くの経営者・役員の方が、ここで感じている本音はおそらく、
- 「法律が厳しくなるのは分かったけれど、具体的に何を整えればいいのか分からない」
- 「中小企業なりの“無理のないやり方”を知りたい」
- 「カスハラ対策まで含めて、一体どうやって管理すればいいのか…」
というあたりではないでしょうか。
2025年に成立した法改正により、カスタマーハラスメント対策は「やっておいた方がよいこと」から、「すべての事業主に求められる義務」へと重みが変わりつつあります。
一方で、「大企業のように専任部署を作るのは現実的ではない」というのも、中小企業の正直な事情です。
そこでDay4では、
- 2026年前後の法改正で、何がどう変わるのか(中小企業向けに要約)
- 日々の現場に落とし込むための「体制づくり7ステップ」
- リソースが限られていても回せる、中小企業ならではの工夫
を、できるだけ具体的にお伝えします。
「完璧な仕組み」を一気に作る必要はありません。“今から1年かけて、少しずつ形にしていくための地図”として読んでみてください。
目次
- 2026年法改正で何が変わるのか(中小企業向けざっくり整理)
- 「場当たり対応」から「仕組み」への発想転換
- ハラスメント・カスハラ対策の体制づくり7ステップ
- 中小企業ならではの工夫と「やりすぎない」設計
- 社内外に「ちゃんと取り組んでいる」と伝わる見せ方
1. 2026年法改正で何が変わるのか(中小企業向けざっくり整理)
まずは、2026年前後の法改正で何が変わるのかを、経営者目線でざっくり押さえておきましょう。
(1)カスタマーハラスメント対策が「義務」に
これまで、パワハラ・セクハラ・マタハラ・育児介護ハラスメントについては、
- 事業主が雇用管理上必要な措置を講じること(方針、相談窓口、研修など)が義務
とされてきました。
今回の法改正では、ここにカスタマーハラスメント(顧客・取引先等からの著しい迷惑行為)が加わります。
イメージとしては、
- 「パワハラ防止義務」とほぼ同じレベルで、カスハラについても会社としての体制整備が求められる
という形です。
(2)いつまでに何をすべきか
改正法は2025年6月に公布され、公布からおおむね1年半以内に施行される予定とされています(一部は2026年4月1日施行予定)。
実務的には、
- 2026年中には「カスハラを含むハラスメント対策の体制」が整っている状態を目指す
と考えておくと分かりやすいでしょう。
「施行日ギリギリに慌てて書類だけ整える」のではなく、
- 2025年~2026年前半:方針・ルール・対応フローを作る
- 2026年前半~後半:現場への浸透と運用の見直し
という2段階で考えるのがおすすめです。
(3)中小企業に求められる基本ライン
細かな内容は政府の指針やマニュアルで示されますが、すでに公開されている資料から見えている「基本ライン」は次のようなものです。
- ハラスメント全般・カスハラについての会社方針を明文化し、社員に周知すること
- 相談窓口や対応体制を整えること(専任部署でなくてもよいが、誰がどう対応するかを決める)
- 相談があったときに、事実確認・一時対応・再発防止までの流れを持っていること
- プライバシー保護や相談者への不利益取扱いを禁止し、周知していること
- 研修やミーティング等で、社員に繰り返し周知・啓発していること
これらを、「紙の上だけ」でなく「日々の運用」で回していくことが、Day4のテーマです。
2. 「場当たり対応」から「仕組み」への発想転換
多くの中小企業でよく見られるのが、
- 問題が起きる → その都度、社長や担当者が個別に対応する
という「場当たり型」のやり方です。
もちろん、個別の事情に応じた対応そのものは大切です。しかし、それだけでは次のようなリスクがあります。
- 担当者が変わると対応方針がバラバラになる
- 社員が「どこまで守ってもらえるのか」が分からず、不安になる
- 外部から見たときに、「会社として何もしていない」と評価されてしまう
ここで必要なのが、
「個別対応」+「共通ルール(仕組み)」の両輪で回すという発想です。
仕組みといっても、分厚いマニュアルを作る必要はありません。
中小企業であれば、
- A4数枚の方針・ルール・フロー
- シンプルな相談記録シート
- 年に1回の振り返りミーティング
といったレベルから十分にスタートできます。
3. ハラスメント・カスハラ対策の体制づくり7ステップ
ここからは、具体的なステップに落とし込んでいきます。
ステップ1:経営トップとしての方針を「一枚の紙」に落とす
最初の一歩は、社長・役員としての「方針」を短く言語化することです。
例えば、次のような内容をA4一枚にまとめます。
- 当社は、パワハラ・セクハラ・マタハラ・育児介護ハラスメント・カスタマーハラスメントを認めない
- 従業員が安心して相談できる環境を整える
- 顧客・取引先からの行き過ぎた要求に対しては、会社として従業員を守る
- 相談したことや協力したことを理由に、不利益な扱いは行わない
ポイントは、
- 法律用語を並べるのではなく、「社長の言葉」で書く
- 長すぎず、読めばすぐに意図が伝わるボリュームにする
この「社長の一枚紙」が、後の就業規則やマニュアルの“芯”になります。
ステップ2:現状の棚卸し(リスクマップづくり)
次に、現在の状態をざっくり棚卸しします。
以下のような表を作って、チェックしてみてください。
- 就業規則にハラスメント・カスハラに関する条文があるか
- 相談窓口は誰か、社員はそれを知っているか
- 過去1~2年で、ハラスメントやクレーム対応に関する相談はあったか
- 顧客対応の現場(店舗・コールセンターなど)で、負担が集中している部署はどこか
- すでにやっている取り組み(研修・ミーティング・張り紙など)は何か
この棚卸しをそのまま「簡易リスクマップ」として使い、
- 今すぐ着手すべきところ
- 半年以内に手を付けるところ
- 来年度の課題に回してよいところ
を三段階に分けておくと、無理のない計画が立てやすくなります。
ステップ3:規程・マニュアルの「骨格」を整える
次に、就業規則や社内規程、マニュアルの見直しです。
最低限、次の3つの「骨格」を押さえておきましょう。
- ①NG行為の例示
パワハラ・セクハラ・マタハラ・育児介護ハラスメント・カスハラについて、「会社としてNGと考える具体例」を短く記載します。 - ②相談窓口と対応フロー
誰に相談できるのか、相談を受けた人はどう動くのか(上司・社長・外部専門家へのエスカレーションなど)を簡単なフロー図にします。 - ③懲戒・是正措置の考え方
重大なハラスメントがあった場合の懲戒の可能性と、その際の手続き(事実確認・本人の弁明の機会など)について、基本方針を示します。
ここでは、「一気に完璧を目指さない」ことがポイントです。
まずは既存のパンフレットや公的資料を参考にしつつ、自社の規模に合わせたシンプルな形からスタートし、毎年少しずつブラッシュアップしていくイメージで構いません。
ステップ4:相談窓口と「動くフロー」を決める
窓口は、形だけ作っても機能しません。次の3点を具体的に決めておきましょう。
- 誰が窓口になるのか
人事担当者、役員、外部の相談窓口など。小規模企業であれば、社長+総務担当の二本立てにするケースもあります。 - どの経路で相談できるのか
口頭・メール・チャット・紙の相談フォームなど。少なくとも1つは「上司を通さなくても相談できるルート」を用意します。 - 相談を受けた後の動き方
“聞きっぱなし”にならないように、「事実確認 → 一時対応 → 対応方針の決定 → 本人への説明 → 再発防止」の流れを、A4一枚のフロー図にしておきます。
フローは、壁に貼れる程度のシンプルさで十分です。「何かあったら、この矢印どおりに動けばよい」と現場がイメージできることが大事です。
ステップ5:研修・ミーティングで「現場言葉」に落とす
ルールやフローを作ったら、必ず「口頭で共有する場」を作ることが重要です。
中小企業向けのやり方としては、次のような方法があります。
- 全社員ミーティングや朝礼の中で、社長から方針を直接説明する
- 管理職向けの短時間勉強会(1時間程度)を行い、よくあるケースを題材にディスカッションする
- 顧客対応が多い部署では、カスハラ事例をもとにロールプレイをしてみる
ここで大切なのは、
- 「ハラスメントはダメです」と言うだけで終わらせない
- 「困ったときはこうしていい」「ここまで来たら会社が前に出る」と具体的に伝える
という点です。
社員が「どこまで自分で対応し、どこから会社に任せていいのか」をイメージできるようにすることで、相談のハードルが下がります。
ステップ6:記録と振り返り(年1回のミニ監査)
運用面で差がつくのが、「記録」と「振り返り」です。
相談や事案があったときには、
- いつ・誰から・どんな内容の相談があったか
- 会社としてどのような対応をしたか
- 結果として、状況はどうなったか
を、簡単でよいので残しておきます(個人が特定されない形での整理でも構いません)。
そして、年に1回程度、経営会議や管理職会議の中で、
- この一年でどんな相談・事案があったか
- どこに時間や負担が集中していたか
- 規程やフローで変えた方がよい点はどこか
を振り返ります。
これを「ミニ監査」のような位置づけにすることで、対策が“やりっぱなし”にならず、毎年少しずつ良くなっていく流れを作れます。
ステップ7:外部専門家・公的資料を「味方」につける
最後のステップは、社外資源をうまく使うことです。
中小企業が自前で全てを作り込むのは現実的ではありません。例えば、次のような支援先があります。
- 社会保険労務士・弁護士などの専門家(顧問契約の有無にかかわらず、スポット相談が可能な場合も多い)
- 厚生労働省や自治体が出しているパンフレット・マニュアル・モデル規程
- 業界団体が作成したカスハラ対応マニュアル
これらの資料をベースにしながら、
- 自社の実情に合う部分を抜き出して使う
- どうしても判断が難しい案件は、早めに専門家に相談する
という形をとることで、「法律に沿いつつ、現場にも合う」ラインを探りやすくなります。
4. 中小企業ならではの工夫と「やりすぎない」設計
ここまで読むと、
「やることが多すぎて、結局進まなそうだ…」
と感じたかもしれません。
そこで、中小企業ならではの工夫として、次の3つを意識してみてください。
(1)「書類よりも会話」を重視する
大企業のように分厚いマニュアルを作るのではなく、
- A4一枚の方針
- A4一枚の相談フロー
- 年1回の全社ミーティング
といったシンプルなセットに絞ることで、「読まれない規程」になりにくくなります。
(2)「全部自前」ではなく「8割は公的資料」を活用する
用語の定義や法律の整理などは、公的なパンフレットやマニュアルに任せてしまって構いません。
自社でカスタマイズすべきなのは、
- 会社としての方針(社長の言葉)
- 実際に起きそうな事例・ケーススタディ
- 相談ルートや対応フロー
といった、「自社だからこそ意味がある部分」です。
(3)「一気に100点」ではなく「毎年10点ずつ上げる」
ハラスメント対策もカスハラ対策も、一度作って終わりではありません。
むしろ、
- 1年目:最低限の規程とフローを整える
- 2年目:実際の運用を踏まえて、現場とのギャップを埋める
- 3年目:研修や評価制度とも連動させていく
というように、「少しずつ良くしていく」発想の方が、中小企業にはフィットします。
5. 社内外に「ちゃんと取り組んでいる」と伝わる見せ方
最後に、せっかく取り組むのであれば、
- 従業員にとって「安心材料」になる
- 採用や取引先に対しても「安心感」を与えられる
形にしておきたいところです。
(1)社内への見せ方
- 社内掲示板やイントラネットに、「ハラスメント・カスハラ防止方針」と「相談窓口」を掲示する
- 入社時オリエンテーション資料に、ハラスメント対策のページを1枚追加する
- 評価面談や1on1の中で、「困っていることはないか」を定期的に聞く
こうした小さな積み重ねが、「いざというときに相談していいんだ」と思ってもらう土台になります。
(2)社外への見せ方
- 会社のWebサイトに、「ハラスメント防止への取り組み」の一文を掲載する
- 採用ページで、「従業員を守るための取り組み」として簡単に紹介する
- 取引先向けの資料に、「不当要求には応じない」方針をさりげなく記載する
もちろん、書いてある内容と実態が乖離していては意味がありませんが、「ちゃんと考えている会社」であることを伝えることは、採用・定着・取引の面でもプラスに働きます。
まとめ・要点
この記事のポイントを整理します。
- 2026年中に施行予定の法改正により、カスタマーハラスメント対策も、パワハラと同様に「事業主の義務」として位置づけられる見通しである。
- 求められるのは、「場当たり的な対応」ではなく、方針・相談窓口・フロー・教育・記録といった要素を備えた「仕組み」としての体制づくりである。
- 体制づくりは、①方針の言語化 → ②現状棚卸し → ③規程・マニュアル整備 → ④相談窓口とフロー → ⑤研修・ミーティング → ⑥記録と振り返り → ⑦外部専門家の活用、という7ステップで進めると整理しやすい。
- 中小企業では、「書類より会話」「公的資料の活用」「毎年少しずつ改善」というスタンスが現実的であり、無理なく運用しやすい。
- 社内外に「きちんと取り組んでいる」ことを見せることで、従業員の安心感や採用・取引先からの信頼にもつながる。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の事情についての法的アドバイスではありません。具体的な対応については、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 法律が完全に施行されるのを待ってから動いても間に合いますか?
A. 正直なところ、施行直前から準備を始めると、「書類だけ整えて運用はこれから」という状態になりがちです。
まずは、
- 方針の一枚紙を作る
- 相談窓口と簡易フローを決める
- 社内ミーティングで共有する
といったところから、できる部分だけでも前倒しで始めておくと、施行時点での負担が大きく減ります。
Q2. 従業員が少ないので、窓口担当者を分けるのが難しいです。
A. 小規模な会社では、「社内窓口+社外窓口」の組み合わせにする方法があります。
例えば、
- 社内では社長または役員が窓口を兼ねる
- 顧問社労士や外部相談窓口を「第三者窓口」として案内する
といった形です。
ポイントは、「上司に言いづらいときの逃げ道」をひとつ用意しておくことです。
Q3. カスハラ対策を強化すると、お客様が減ってしまわないか心配です。
A. 多くの企業の例を見ると、「不当な要求には応じない」という姿勢を明確にすることで、むしろ従業員のモチベーションやサービス品質が上がり、結果的に顧客満足度が向上したケースも少なくありません。
大切なのは、
- 正当なクレームには真摯に対応する
- 明らかに行き過ぎた要求には、会社として線を引く
というバランスを、社内で共有しておくことです。従業員が安心して働ける環境は、長期的には顧客にとってもプラスになります。









