知らなかったでは済まされない!中小企業のためのハラスメント対策入門【Day1】
はじめに
「うちは家族的な会社だから、大きな問題は起きないよ」
そう思っていた中小企業でも、一件のハラスメントがきっかけで、SNS炎上・退職ドミノ・訴訟・行政指導にまで発展するケースが珍しくなくなってきました。
厚生労働省の調査では、過去3年以内にパワハラを受けたと答えた人が約2割。都道府県労働局へのパワハラ相談件数は年間で数万件にのぼります。
そしてすでに、
- パワハラ
- セクハラ
- 妊娠・出産等に関するハラスメント(いわゆるマタハラ)
- 育児・介護休業等に関するハラスメント
については、防止措置を講じることが法律で事業主の義務とされています。
さらに今後は、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策も、企業の義務として明確に位置づけられ、2026年前後に施行予定とされています。
つまり、「知らなかった」「うちはまだ小さい会社だから」で済まない時代に入っています。
このDay1では、経営者・役員の方向けに
- まず押さえるべき「各種ハラスメントの全体像」
- 現時点で法律上求められていること
- 2026年までに必ず押さえておきたいポイント
を、できるだけ難しい言葉を使わずに整理していきます。
目次
- 各種ハラスメントは「4+カスハラ」で整理するとわかりやすい
- なぜ中小企業ほどハラスメントリスクが高いのか
- 法律でここまで求められている(現在と2026年以降)
- 「一度起きたら終わり」にしないための3つの視点
- このシリーズで今後学べること
1. 各種ハラスメントは「4+カスハラ」で整理するとわかりやすい
世の中には「○○ハラ」という言葉がたくさんありますが、法律上、会社がきちんと対策を求められている“柱”は次の4つ+1つです。
(1)パワーハラスメント(パワハラ)
一般的には、次の3つの条件を満たすものがパワハラと定義されています。
- 職場で行われる行為であること
- 立場の優位性を背景にした言動であること(上司から部下だけでなく、経験やスキルの差なども含む)
- 業務上必要な範囲を超え、相手の就業環境を害するレベルの精神的・身体的苦痛を与えること
例えば、次のような行為はパワハラに該当する可能性が高くなります。
- 皆の前で人格を否定するような叱責を繰り返す
- 明らかにこなせない量の仕事を押しつける
- 業務に関係ない私的な雑用を強制する
(2)セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクハラは、
- 労働者の意に反する「性的な言動」によって
- 解雇や減給などの不利益を受けたり
- 職場環境が不快になり、働きづらくなること
などが問題とされます。
典型的には、次のような行為です。
- 容姿や年齢、結婚・出産についてしつこく質問したり、からかったりする
- 飲み会や出張の場で身体に不必要に触れる
- 性的な冗談や画像・動画を職場で共有する
(3)妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産、産前産後休業などを理由に、次のような扱いをすることが問題になります。
- 「妊娠したなら辞めてほしい」と退職を迫る
- 休業・時短勤務など制度を利用しようとすると嫌味を言う
- 制度を利用した社員だけを不利な部署に異動させる
妊娠・出産はごく自然なライフイベントであり、それを理由に不利益な扱いをすることは、法律でも明確に禁じられています。
(4)育児・介護休業等に関するハラスメント
育児休業・介護休業・短時間勤務など、法律に基づいた制度の利用に関連して行われる嫌がらせも問題です。
- 「育児休業なんて取ったら、戻ってきても席はないよ」と言う
- 介護のための時短勤務を申し出た社員に、仕事を回さない
- 制度を使った社員の昇進だけを見送る
ここまでの4つは、厚生労働省のパンフレットでも明確に整理され、事業主に防止措置が義務付けられている領域です。
(5)これから重要になる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」
そして、これから重要になるのが5つ目:カスタマーハラスメント(カスハラ)です。
カスハラとは、
- 顧客や取引先などが行う言動で
- 社会通念上許容される範囲を超え
- 従業員の就業環境を害するもの
を指します。具体的には、
- 長時間にわたる怒鳴りつけや土下座の強要
- SNSでの晒し行為をほのめかしながらの過度な要求
- 担当者個人への執拗な連絡やプライバシーの侵害
などです。
今後、法改正によりカスハラ対策も事業主の「雇用管理上の措置義務」に位置づけられ、2026年前後に施行される予定とされています。
ポイント:「パワハラ・セクハラ・マタハラ・育児介護ハラ+カスハラ」この5つを、“会社として仕組みで管理するべきテーマ”として押さえておくと整理しやすくなります。
2. なぜ中小企業ほどハラスメントリスクが高いのか
中小企業の経営者・役員の方とお話ししていると、よく聞くのが次のような言葉です。
- 「社員同士、仲がいいから大丈夫だと思う」
- 「お客様第一だから、多少きついクレームにも我慢してもらうしかない」
- 「現場の指導は、細かく口出ししないようにしている」
しかし、実際には次のような事情から、ハラスメントが発生しやすい土壌になりがちです。
- 管理部門が少人数、または兼務で“名ばかり”の相談窓口になりやすい
- 指導・教育のやり方が属人的で、“どこまでがOKか”の共通認識がない
- 「売上優先」で、従業員のメンタルや体調への配慮が後回しになりやすい
厚労省も、ハラスメントは個人の尊厳を傷つける行為であり、職場の生産性低下・人材流出・企業イメージ悪化など、多面的な経営リスクになると警鐘を鳴らしています。
「うちの規模で、ここまでやらないといけないの?」という感覚のまま放置しておくと、1件のトラブルが、会社の存続に関わるレベルのダメージになることもあります。
3. 法律でここまで求められている(現在と2026年以降)
すでに義務化されているもの(現時点)
労働施策総合推進法
職場におけるパワハラ防止措置をすべての事業主に義務付け。中小企業も対象です。
男女雇用機会均等法・育児・介護休業法
セクハラ、妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメント防止措置が義務。
相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止
「相談したから」「事実を話したから」という理由で、解雇・降格等を行うことは明確に禁止されています。
2026年前後に強化されるポイント(予定)
カスタマーハラスメント対策の義務化
改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント対策が、パワハラ防止と同じレベルの義務として追加される方向です。施行は2026年中と見込まれています。
求職者に対するハラスメント防止の強化
就職活動中の学生や中途採用の応募者など、いわゆる「就活セクハラ」も含めた対策が求められる流れになっています。
ここでのメッセージ:
- 「法律が厳しくなるから仕方なくやる」のではなく、
- 会社と従業員、両方を守る“経営課題”としてハラスメント対策をアップデートする
この視点を経営陣が共有できるかどうかが、大きな分かれ目になります。
4. 「一度起きたら終わり」にしないための3つの視点
ハラスメント対策というと、
「研修を一度やって、就業規則に条文を入れておけばOK」
と思われがちですが、実際には3つのレイヤーで考える必要があります。
(1)ルールの整備(見える化)
- 就業規則やハラスメント防止規程
- 相談窓口・対応フロー
- 懲戒の考え方
「どんな行為がNGで、起きたときにどう動くか」を文書で明らかにしておくことが、会社を守る第一歩です。
(2)風土づくり(行動レベル)
- 管理職の指導スタイル
- ミスが起きたときの叱り方・伝え方
- クレーム対応時の社員の守り方
どれだけ規程が立派でも、日々の会話やマネジメントが変わらなければ、現場は「結局、何も変わっていない」と感じます。
(3)記録と振り返り(再発防止)
- 相談内容・対応内容の記録
- 事案が起きたときの原因分析
- 研修の参加状況やアンケート
後になって「言った・言わない」の争いにならないよう、事実の記録と振り返りの仕組みを持っておくことが、経営のリスク管理につながります。
この3つは、1回整備して終わりではなく、毎年見直す“安全装置”のようなものだと考えるとイメージしやすいでしょう。
5. このシリーズで今後学べること
Day1では「全体像とリスク」をざっくりつかんでいただきました。
今後の回では、さらに踏み込んで次のような内容を扱っていきます。
Day2:
パワハラと指導の違い、セクハラのNGライン、マタハラ・育児介護ハラの典型例
Day3:
実際の事案をもとに「どこで止められたか?」「どこがマズかったか?」を分解
Day4:
2026年法改正(カスハラ義務化)を見据えた体制づくりのポイント
Day5:
今日からできるチェックリストと、専門家への相談の使い方
いずれも、中小企業の経営者・役員の視点から整理していきます。
まとめ・要点
この記事のポイントを整理します。
- ハラスメントは「パワハラ・セクハラ・妊娠・出産等ハラ・育児・介護休業等ハラ+カスタマーハラスメント」の4+1で整理するとわかりやすい。
- パワハラ・セクハラ・マタハラ・育児介護ハラについては、すでに法律で防止措置が全事業主の義務となっており、中小企業も例外ではない。
- 2026年中には、カスタマーハラスメント対策も義務化される予定であり、「顧客だから仕方ない」という対応は通用しにくくなる。
- 中小企業は、組織体制や風土の影響でハラスメントリスクが高まりやすく、一件のトラブルが経営危機につながる可能性がある。
- 対策のカギは「ルール」「風土」「記録」の3つの視点で仕組み化し、毎年見直していくこと。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の事情についての法的アドバイスではありません。具体的な対応は、専門家と相談しながら進めてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 社員数が20名程度の小さな会社でも、ハラスメント規程や相談窓口は必須ですか?
A. はい、会社の規模に関係なく、防止措置はすべての事業主の義務です。中小企業では、社長や役員が相談窓口を兼ねるケースもありますが、「誰に相談できるのか」「会社としてどう対応するのか」が明文化されていることが重要です。
Q2. 部下を厳しく指導しただけなのに、パワハラと言われないか不安です。どこが線引きになりますか?
A. 法律上のポイントは、次の3点です。
- 立場の優位性を背景にした言動かどうか
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えていないか
- 相手の就業環境を害するレベルの精神的・身体的苦痛を与えていないか
感情的な叱責や人格否定などはNGですが、事実に基づいた指導・フィードバックは適切なマネジメントとして求められています。
Q3. まず何から手をつけるべきでしょうか?
A. 最初の一歩としては、次の3つから着手すると取り組みやすくなります。
- 既存の就業規則・社内規程にハラスメント関連の記載があるか確認する
- 相談窓口と対応フローを紙1枚で整理する
- 役員・管理職で、今回の法改正(カスハラ義務化を含む)の概要を共有する
この3つから始めることで、無理なく全体像を整えていけます。そのうえで、自社の状況に合わせた制度づくりや研修計画を検討していくイメージです。









